「原案となった作品を知る切っ掛けになれば……それに尽きます」戦争と女の顔 まっすーさんの映画レビュー(感想・評価)
原案となった作品を知る切っ掛けになれば……それに尽きます
名著「戦争は女の顔をしていない」を原案にしているという情報を聞いて本作を鑑賞。原案となった作品は大祖国戦争を経験した女性の声に耳を傾け女性ならではの視点から戦争を描いており、戦争経験を英雄譚としてしまう男性の証言とは違った印象を与え、初めて読んだ時に作者のジャーナリスト魂に震えたのを覚えています。一方、映画内で描かれるストーリーは原案の本中には見当たらず(原語版にはあるのかもしれませんが…詳細は不明です。申し訳ありません)、主人公が近所のおっさんに迫られたり、戦友の子供を事故で亡くしたり、さらには傷痍軍人を看取ってそれが元で無理やり友人のために子どもを作るようSEXを強要されたり……戦争と女性と言う2つのテーマのうちギリギリ女性という部分にしかフォーカスできていないように感じました。
もちろん、主人公の発作は戦争由来の心のキズですし、銃弾と砲弾が飛び交い人がゴミのように死んでいく映像だけが戦争を的確に表現しているとは思いません。ただ、原案となった作品にはリュドミラ・パヴリチェンコのような果敢な女性兵士だけでなく、極寒の地で洗濯に従事したり、男性兵に混じって月経に耐えたり、時には女性であることをひと時だけ思い出し同世代ではしゃいだりと言ったり、さまざまなエピソードを交えることで戦争と女性を破綻なく捉えています。本に出てくる女性たちのエピソードを直接描くことは憚られるかもしれませんが、原案として据えることが必要だったかは疑問で、逆にオリジナルの作品として作った方が良かった気さえしました。
最後に個人的に気になった点として、帰還兵の友人が恋人から両親を紹介され娼婦まがいのことをして戦地を生き抜いたと告白するシーンがあるのですが……原案の中では祖国を愛し、党への忠誠を誓って若くして戦地へ赴いた女性たちが、帰還して近所の人から白い目で見られたり、婚約を破棄されたり、挙げ句は自らの子どもから恐れられたりと言ったエピソードが多く語られており、映画内のような女性の帰還兵の描き方はリスペクトに欠けると感じました。もしかしたらそういった真実・側面もあるのかもしれませんが、原案などとして用いずしっかりとしたリサーチの上でオリジナルの作品として描くべきだと思います。
長々と書き連ねてしまいましたが、原案のファンの戯言です。ただ、映像的には私も素晴らしいと思ったので、この作品を見て原案に少しでも興味を持ってくれたら嬉しいと思います。