「この映画の面白いところは、ソマリア内戦に巻き込まれた韓国と北朝鮮の大使館員たち、北と南の対立の感情を捨てて、協力し合うというところ」モガディシュ 脱出までの14日間 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
この映画の面白いところは、ソマリア内戦に巻き込まれた韓国と北朝鮮の大使館員たち、北と南の対立の感情を捨てて、協力し合うというところ
7月1日に公開される韓国映画「モガディシュ 脱出までの14日間」は、2021年度の同国の興行収入1位を記録した作品です。内戦下のソマリアを舞台に、大使館員の脱出劇を描いたアクション大作で、リュ・スンワン監督は「韓国の観客がたくさんの応援を送ってくれた結果です」とインタビューで語っていました。
首都圏以外の地方にも新型コロナウイルスの感染が拡大。1日の感染者が1000人以上に達し、過去最多を更新する日が増えていた。「そんな時に新作を映画館にかけるなんて、正気の沙汰ではない」という声もあったそうですが、「今誰かが率先して新作を公開しないと、映画館がつぶれてしまう、映画産業が崩壊してしまう」と、公開を決定。最終的に興行収入30億円を突破したのです。「私の勇気を、大勢の人が支持してくれました」この監督の男気を先ずは評価したいと思います。
この映画の面白いところは、ソマリア内戦に巻き込まれた韓国と北朝鮮の大使館員たち、北と南の対立の感情を捨てて、協力し合うというあり得ないと思う話なんですが、実は実話に基づいているというところの意外性です。
そして後半からの命懸けの脱出シーンの大迫力です。反政府軍からも、政府軍からも敵だと見なされ、激しい銃弾の雨あられをかいくぐるシーンは、手に汗を握る大迫力でした。そして脱出の窓口となってくれたイタリア大使館は、韓国のコネで何とか潜り込めることになりましたが、その時北朝鮮の大使館は方便で韓国に転向したことにしたのでした。なので、無事イタリア大使館に着いても、嘘がばれると強制退去となるかもしれません。最後までどうなるか全く予測不明でストーリーがグイグイ進んでいくところが本作の魅力です。
物語は1990年、ソマリアの首都モガディシュ。韓国の駐ソマリア大使ハンは国連への加盟を目指す韓国政府の命を受けて、多数の投票権を持つアフリカ諸国へのロビー活動に励んでいました。だが時を同じくして、北朝鮮の駐ソマリア大使リムも国連加盟を目指す政府のためにアフリカ諸国へのロビー活動に奔走しており、両国間の妨害工作や情報操作はエスカレートしていくのです。
そんなある日、現政権に不満を持つ反乱軍による内戦が勃発。たちまちモガディシュの街は大混乱に陥り、各国の大使館は略奪や焼き討ちにあい、ついにリムは暴徒の襲撃を受けて追い出されてしまうことに。
その時リムが思いついたのは、韓国大使館に助けを求めるという禁じ手でだったのです。
本作のヒットには、当時の世界情勢も影響したようです。
映画は、韓国、北朝鮮の大使館員らが協力して、ソマリアの首都から脱出した1991年の実話を基にしている。一方、公開直後の21年8月下旬、韓国政府は、米軍の撤収で情勢が悪化するアフガニスタンからの避難民を受け入れました。彼らは韓国大使館などで働いてた人々でした。「アフガンからの避難作戦と30年前の脱出劇が重なるところがあり、映画に関心を寄せる人も多かった」とリュ監督は語ります。
もちろん、今年のアカデミー賞の国際長編映画賞部門の韓国代表に選ばれるなど、映 画の内容も充実していました。特に、モロッコでのロケ撮影が素晴らしい効果を上げていると思います。「映画を作るのに一番理想的なのは、実際に事件が起きた空間で撮影すること。ソマリアには渡航できませんでしたが、街並みが似ているモロッコの海辺の町で撮影することになりました。モロッコで、ハリウッド映画の撮影にかかわったことがある、有能な現地スタッフの協力も大きかったようです。その結果反乱軍の兵士や避難民など、大勢のエキストラが登場し、迫力満点の演技をみせてくれています。
リュ監督は、端役まで含めて、数百人いたエキストラを一人一人キャスティングしたそうです。撮影には半年かかったそうですが、数百人ものエキストラ一人ひとりに演技を付けて、迫力ある脱出シーンの描いたことは、助監督を始めとするスタッフが大変な努力だったことでしょう。
仕事に手を抜かない映画人の奮闘が、韓国映画の勢いを支え続けていると思います。その充実ぶりはうらやましいほどですが、「日本映画も個性的な映画が作られていますよね。『カメラを止めるな!』は感動を伝えてくれたし、濱口竜介監督の映画もあります。日本、韓国両国の映画が相互作用し、』健全な影響を与え合って、成長していくといいと思っています」とリュ監督は語ってくれたようです。