「感情表現とアクションシーンのハーモニー」モガディシュ 脱出までの14日間 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
感情表現とアクションシーンのハーモニー
1990年末から91年初頭のアフリカ・ソマリアを舞台に、共に国連加盟を目指してソマリア政府の支持を取り付けようとする韓国と北朝鮮両国の大使を始めとする外交官やその家族達が、暴動から内戦に発展して混乱するソマリアの首都モガディシュから脱出する姿を描く作品でした。実話を基に制作されたそうで、勿論創作された部分は多々あるでしょうが、非常にリアリティに富んでおり、まるで自分が現地にいるかのような錯覚を与えてくれました。
暴動が発生する前は、互いに妨害工作をしていた両国大使でしたが、暴動発生後は協力してソマリアを脱出することになる過程は、実に見応えがありました。特に人物描写が秀逸で、平生外交的に敵対している両国大使達が暴動を受けて協力することになるやり取りが、時にシリアスに、時にユーモアを交えて描かれていることや、人間らしいアンビバレントな感情を、俳優陣が上手に表現していたことには、感心するばかりでした。
また、モガディシュの街の風景は、(実際に行ったことはないので本当のところは分かりませんが)壮大かつ緻密に再現されており、カネ掛けて作ってるなあという感じがヒシヒシと伝わってきました。そのモガディシュで繰り広げられた暴動や襲撃シーンや、終盤の車による逃走シーンなども迫力満点で、アクション映画としての出来栄えも中々のものでした。
ちょっと首を傾げたのは、その逃走シーンで無数の銃弾を受けながら、犠牲者が1人しか出なかったこと。アクションとしては面白かったものの、ダイ・ハードじゃあるまいし、流石にこの部分はやり過ぎかなと感じたところです。
ただ全体として観れば、ストーリーも演技も描写も非常に優れた映画で、評価も満点を与えたいと思います。
因みに韓国と北朝鮮の両国は、大使達がモガディシュを脱出した1991年9月に国連加盟を果たしたそうです。そういう意味で、歴史を刻む作品でもあった訳で、いい映画を観たなあという感覚を一層強めました。
なお、ソマリアは現在も治安状況が最悪のようで、外務省が出している渡航情報でも、最悪の「退避勧告」が出されているようです。そのため本作のロケも、モガディシュと似た感じのモロッコで行われたとか。ソマリアを舞台にした映画と言うと、1993年に実施されたアメリカ軍の軍事作戦を描いた「ブラックホークダウン」がありますが、あちらもモロッコでロケが行われたそうで、本作の制作に際してもそうしたことを参考にしたのではと勝手に想像するところです。
あと、作品の内容とは一切関係がないのですが、韓国大使役を演じたキム・ユンソクは林外務大臣に、韓国大使の片腕である参事官役を演じたチョ・インソンは前原誠司衆院議員にそれぞれ似ており、なんか笑ってしまいました。