ロストケアのレビュー・感想・評価
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ズバリ来年の日本アカデミー賞を総ナメにする傑作だと断言します!
昨日観た『The Son/息子』のラストに衝撃を受けたのに、その余韻を打ち消すくらいの激しいショックに包まれました。上映が始まったら、心が揺れ動くのが自分でわかるくらい物語に引き込まれ、夢中で最後までスクリーンに釘付けとなったのです。そして、自分ならどちらの判断をするのだろうと、観終わった今もずっと考えています。
葉真中顕の日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作の原作は、謎解きの要素もありますが、何より、命の尊厳、家族の絆といったテーマに真摯に取り組んだことに好感が持てました。映画化において「ミステリー」という原作のジャンルを通してでも、重厚な問題提起が可能なんだいうことを、提示した作品となったのではないでしょうか。
小さな町のケアセンターに勤める介護士、斯波宗典(松山ケンイチ)は献身的に働き、高齢者やその家族、同僚の信頼が厚く、誰からも慕われていました。でもその裏で施設利用者を大量に殺害していたことが明らかになるというのが、この作品の基本的な話です。
物語の前半はミステリー調。施設利用者の家で利用者と斯波の上司で所長の団元晴(井上肇)の死体が発見される事件が発生します。
事件を担当することになった検事の大友秀美(長澤まさみ)は、虚偽の証言をしていたことから斯波に疑いの目を向けます。しかし物証がない中で、数字に強い部下の事務官である椎名幸太(鈴鹿央士)がデータから、斯波が勤めるその訪問介護センターが世話している老人の死亡率が異常に高く、彼が働き始めてからの自宅での死者が40人を超えることを突き止めるのです。
真実を明らかにするため、斯波と対峙する大友は、「誤った正義感をふりかざした身勝手な大量殺人」と断罪します。しかし斯波は「殺人は最後の介護、ロストケアなのだ。本人と家族を救った」と主張するのです。冷静に語る斯波の言葉は揺るぎない確信に基づくものでした。
斯波が目にしたつらい介護の現場の様子は、介護サービスを利用して年老いた親の面倒を見るその子たち(坂井真紀、戸田菜穂)の追い詰められた日常として描かれていきます。
大友は、「自分勝手な誤った正義感に基づいた殺人」として、斯波を糾弾します。「一人一人の人生の何があなたに分かるのか」「大切な家族の絆をあなたが断ち切っていいわけがない」「他人の人生に決着をつける権利はない」と。しかし、斯波は「この社会には穴が開いている。落ちたらはい上がれない」「かつての自分がしてほしかったことをした」と反論する斯波に大友は言葉を失うのでした。そして斯波は、介護殺人が毎年何人増えているかという数字で畳みかけるのです。(厚生労働省の統計<2006~2019>によると年間20~30件起きているそうです。)
斯波が介護対象者を次々殺害していく原点となったのは、実父である正作(柄本明)における過酷な介護経験でした。介護のために就労もままらならず、父親の年金では家賃や光熱費で精一杯。次第に貯金を切り崩していって、最後はお米を購入する資金までも枯渇し、飢えをしのぐ日々に。思いあまって市役所に生活保護の申請に行っても、就労可能な斯波が介助している限り、生活能力があると認定されて門前払いを喰らってしまいます。もう親子揃って飢え死にを覚悟せざるを得なくなったとき、正気を取り戻した正作から、自分を殺してくれと嘱託されたのでした。
このときの殺害方法がバレずにすんだことが、後々の連続殺人につながっていったのです。
大友が真相に迫る過程は、なかなかスリリング。しかし映画の主眼は斯波が犯行を認めてからの、大友との議論にありました。予告編では単なる殺人鬼にしか見えなかった斯波でした。大友の主張の方が当然だと思いました。けれども物語が進み、斯波が体験してきた介護の現実は、行政も宗教も救いようもない過酷なものでした。そんな現実を見せられると、斯波の主張する「殺害が救いなんだ」という主張に、すっかり共感してしまったのです。
トドメのひと言は、作品の冒頭に表示される「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい」 (マタイによる福音書 第七章 十二節)という聖書の言葉でした。
キリスト教信者でなくとも、この言葉は耳にしたことがあることでしょう。他者に愛を求めるのではなく、みずからが愛を与えなさい。この考えはキリスト教に限らず、他の宗教でも根幹になっていることから「黄金律(ゴールデン・ルール)」と呼称されています。 斯波はクリスチャンではなかったが、どうやら「黄金律」の部分を繰り返し読み返していたようなのです。そして斯波が思ったように、もし「人にしてもらいたいと思うこと」が、正作が語ったように殺してくれ、自分を苦しみから解放してくれと懇願されたとき、「人にしなさい」と殺してしまうことがどうなのか、わたしの中の宗教観が混乱してしまいました。
もちろん殺人は決してあってはならない行為ですが、何が正しくて何が悪いのかは、その時、その状況にならなければ判断できないと考えさせれたのです。
ただ本作は、観客それぞれの置かれている状況によって、2人の議論は違って見えるかもしれません。毎日、高齢者を相手にしている家族や介護スタッフ、親を施設に預けた家族、近い将来介護する身、あるいは介護される身になるであろう中高年、少子高齢化社会を想像する若者たち…。斯波は、介護現場の厳しさとは無縁の人たちを「安全地帯」にいると言いいますが、そこにいるかいないかでも、違うことでしょう。
ただ、誰もが受け止めざるを得ないのは、過酷な現実から逃れられない人たちがいるということ。映画は、見終わった観客にずしりと重い手応えを残すことでしょう。
映画では、小説とは異なる大友の背景が描き込まれ、彼女が斯波に重なって見えてくるのです。いやそれ以上に、自分の母親を多忙な自分の都合に合わせて、老人ホームに押し込めていた大友は、斯波の言葉によって、罪悪感を感じ始めて、追い込まれていくのでした。まさに善人と悪人が逆転する悪人正機説を地で行く作品だったのです。
接見の場面での前田哲監督の演出も、その狙いと一致する。松山と長澤は、丹念に役を演じています。微細な心理をリアルに表現し、何度も熱演に息をのみました。特にあの斯波の超絶したキャラクターは、作品ごとに役になりきる、松山ケンイチでしか演じられないものだと言えるでしょう。来年の日本アカデミー賞を総ナメにする傑作だと断言します。
かつてなく犯人の言い分が分かる
観るべき映画です。
何年何十年ぶりに素晴らしい映画でした。
何が良いって取り敢えず敢えて言うなら松山ケンイチと柄本明という演技に定評のある2人が親子の設定なことがこの映画の良さを表してると自分は言い切れます。
正直この2人の陰に隠れてしまった長澤さんも素晴らしいし他の出演者も素晴らしいのですがやはりこの2人の演技は本当に素晴らしかった。
それにこの映画が観た側に問いかけてそして感じて欲しいテーマが今の日本にある沢山の問題全てに共通してると自分は感じました。
本当に松山さんや長澤さんや柄本さんのキャスティングは見事だと感じました。
是非まだ観てない人や観る気もない人でも騙されたと思って一度でいいから観てくれればなぁと思ってます。
皆が目を背ける正論作品。若干の非現実も、骨太の誰でも共感
わし
履歴上ほぼ最低の 個人的感想にすぎないが、くだらない作品が
ドクターデスの遺産 綾野剛さん、北川景子さん主演
なんです。キレイ事 法律のボウテキ解釈で正直、劇場で観て大後悔した。ワシ的に生涯映画ワースト
その点この作品は
安全地帯のキレイ事を排している
実際の介護家族の立場、介護される本人の立場に立っている点が ドクターデスのキレイ事と大きく違う。
無料リーフと言うよりフライヤー段階で福祉大学の専門家が太鼓判、
森山直太朗、LiLiCo 笠井信輔 さんが皆さん正論で安心した 秀逸無料事前パンフ
有料パンフもおすすめではあるが、エコノミーで行きたい人にはこの事前無料フライヤーだけでも秀逸、
有料パンフはそれはそれで俳優の立ち位置、制作意図がわかって良い。
ワシ、実は
法律捜査実務と 介護福祉実務には 経験則で 精通してる。片方だけ詳しい人は腐る程いるだろけど
捜査 と 介護する立場 精通してる人間は多くは無いと自負している、自分語りですみません。
なにを言いたいかと言うと、捜査実務も介護も違った意味で大変な仕事 両極端。一方捜査官は縦社会書類作成地獄。正検事は実は汚れた仕事は副検事、事務官、警察に押し付けて気楽な稼業だが、捜査にクビ突っ込むほど暇では無い。
一方の介護実務は体の酷使、汚物我慢!認知症の方の狼藉我慢地獄、低賃金我慢の現状
と言うこと。
前半、長澤まさみの検事が
理屈としてはあり得ても、現実にはあり得ない警察飛び越えての捜査指揮に眉間にシワのワシだったが
最後に整合性を持たせており共感、好感なのだ。
介護家族、介護士の苦しい立場、薄給 も現実的
介護に携わる人が口が裂けても言えない本音に踏み込んでいる。
松山ケンイチの役
よくぞ、正論、苦悩言ってくれた。
法律的には間違い無く死刑の裁き、極悪であるが
完全に 社会的勝ち組の検事を論破し•
安全地帯からの綺麗ごとを糾弾•••
ある意味凶悪犯罪者🆚検事の対決は
社会派エンタメ ていう括りで、見応え十分。エンタメ枠として取り扱わないと かなり危険な描写ではあり、最後、法廷傍聴人としての 戸田菜穂演じる介護家族の暴言咆哮不可解
で中和してる
全く飽きる事の無い。息詰まる展開、そして、それぞれの立場に共感ゆえにワシの涙腺崩壊寸前、
チコっと24時間365日稼働+テクノロジー 松山ケンイチ役は ご愛嬌的飛躍
介護家族、介護士、介護される本人に 寄り添う
好作品。実は 良いも悪いも無い 難しい問題できれば目を背けていたい問題に対峙している、
誰でも老いるし、自分自身を失った状態で 生きながらえたい人はどのくらいの割合だろう?
この作品監督 そして、バトンは渡された
と同一監督とは思えないレベルで生み出された秀逸作品 つぎはぎ から 骨太 へ。
原作のチカラも大きい
戸田菜穂🆚坂井真紀
も見どころ
ただ生活保護は受付係員段階で冷酷拒否だけは誇張が大きい描写であるが、現行制度への提言だと思うと許容範囲
もちろん、安楽死とはいえ、一部、嘱託殺人とはいえ
法的には殺人は絶対許されない極悪犯罪行為
だが、当事者の立場では
森山直太朗のコメントが正しい 是非は軽々には論じられない。森山直太朗さん、半落ち のテーマ曲で好感度高いしメロディも美しいが、サビ以外の歌詞がいきなり本番だと聴き取りにくいのが玉に瑕、
青森出身の松山ケンイチさんの醸し出す 朴訥な信念の深さに心打たれた 介護される立場に刻々とせまりつつあるジジイであった。
不謹慎かもしれないか、誰でもわかる面白い作品でした。ただ力作すぎて1回の鑑賞で十分の息詰まる作品
昭和時代からは考えられない超高齢化社会に是非❗️
iPad復旧せず•••文字打ちにくいなぁ⁉️もう❗️のジジイでした。スマホ📱無理目ギブアップ寸前•••私ごとですみません。あっ⁉️あと客席満員御礼 ゆえに涙腺崩壊してたまるか❗️の我慢大会だった。ただ安直な お涙頂戴では無いので、客席全員、涙腺死守の 同志戦友感 が半端なかったのは伝えておきます。
迫真の演技による問題提起
解決の見えない課題
悪魔であり天使、カリスマ
松山ケンイチは凄いね。犯罪者だけど魅力とカリスマが凄い。応援というか、支持したい。
ロストケアが、善なのか悪なのかは見る人次第ですね。
意見の押しつけは無いので、どちらにも取れそうで良い。
いちばん辛いのは、大切な家族が嫌いになることですよね。嫌われるのも嫌いになるのも辛い。
映画として、引き込まれるし、大切なシーンは無音長回しされて、とても好き。
ストーリーは家族愛の話ですね。
全員、事情があって感情移入してしまう。
介護とか老後とか、テーマとしては「プラン75」と同じかな。ストーリーや視点は真逆だけど。
個人的にはどちらも良いけど、「プラン75」の方がシステムとしてはいいな。
考えさせられる。
介護される世代
介護する世代
まだ考えてもいない世代
どの世代の目線もあって良い。
3人の涙は凄い。韓国ドラマや映画も好きだけど、泣きのシーンは日本の方が凄いね。
ただ、予告で見せ過ぎだね、いいシーンだけど。
まだあいつが泣いてないな、、、って気になってしまった。
沢山の人に観て欲しい
両親との対話・・・何かと言い訳作って先延ばししてる中高年の方にオススメ
金曜レイトショー『ロストケア』
昨年父が倒れ一時危篤、母は水頭症からの物忘れ・・・
一気に押し寄せて来た介護問題でしたが・・・
すぐ白旗上げた事で、親身になってくれる相談員の方と出会い適切なアドバイスを受けて両親共に施設に入ってます。
そんな状態なので、切実に重く受け止めながら鑑賞しました。
映画は介護に苦しむ家庭がメインで、献身的な介護士が、その苦しみから家族を解放する為に老人の殺害を重ねる。
担当検事も介護を要する母親は有料老人ホームにいて、別れた父親は20年会ってない。
介護士を演じる松山ケンイチと検事の長澤まさみが対峙するシーンの見応えは半端なく・・・
柄本さんと松山さんの回想シーンはリアルを超えた壮絶描写でした。
間違いなく来年の日本アカデミー賞を席巻すると思います。
介護問題に関しての対応は、各ご家庭の考えがあるとは思いますが・・・
誰しも経験する可能性の多い現実・・・・
何かと言い訳作って先延ばしにた事のある中高年の方は、観るべき作品だと思います。
エンドロールで流れる森山直太朗の優しい歌声で切なさが増す。。。。
国家にロストケアのための殺人を裁く資格があるのか⁉️
ロストケア(=介護からの解放)のために、人を殺める行為が、一般の殺人罪と同等に扱われていいのだろうかというのが、率直な感想です(-_-;)
戦争による殺人が許されて、地獄のような介護から解放させるためにやむなく命を断つ行為が許されないなんて、どう考えてもおかしいと思う😨
親子だから、親族だから、扶養義務があるから、介護も仕方ない面もあるだろうが、それも限度があってしかるべきで、限度を越える介護は、本来、国=行政が対処すべき問題である。
国が何も手を差しのべてくれないから、こういう問題が起こるのに、それを差し置いて、何でも人を殺せば殺人罪で裁くというのはいかがなものだろうか⁉️
私には、ロストケアのための殺人は、緊急避難的な行為として、殺人罪には当たらず、それどころか、救済行為として、讃えられるべき行為ではないかと思えてならない‼️
内容はとても良かったが。。。
終始、胸が苦しくなる映画
松山ケンイチさん演じる斬波のやっていることは殺人であることに変わりはないが。。。気持ちがまとまらずに簡単には感想は書けそうにはありません。皆様のレビューをじっくり読ませていただいてもう少し考えたいと思います。
事件発覚後の戸田菜穂さんと坂井真紀さんの反応の違いは、このテーマには答えがないということを意味しているのかもしれません。
とにかく観ていて終始、胸が苦しくなる映画でした。
日本で進む超高齢化社会。誰もが介護によって不幸にならないための制度やサポートをもっと国は推し進める必要がありますね。
日本の死刑制度についても考えさせられました。
松山ケンイチさんと長澤まさみさんの対峙のシーン、ふたりとも譲らず素晴らしい演技でした。
柄本明さんの演技も凄すぎと思いましたが、柄本さんの2023年の公開作品がすでに4作で公開予定もすでに5作は確定、日本の映画会は柄本さんに頼り過ぎではないでしょうか。
結局、
親のことを考えさせられる
ややメッセージ感が足りないが…。
今年100本目(合計751本目/今月(2023年3月度)35本目)。
今週(3月4週の週)では本命だと思ったし、個人的にはその筋で見ました。
内容については多くの方がすでに書かれているので思い切ってここはカットします。
…で、レビューのタイトルにも書いたのですが、「では、何が述べたいのか」という点がはっきりしていない点はどうしてもあげられます。これから高齢社会になるということは映画で述べることでもなく一般常識ですし、一般的にヘルパーなり介護センターなりを探すとしても、「ここまで無茶苦茶な人がいる」ということは想定しないので、「申し込む前に口コミサイトなどでよく調べましょう」でもないはずだし、この映画の「主人公」と言える人(おそらく一意に決まるはず)のとった行動も許されることはありませんが、「許されるものではないが、趣旨がまったく理解できないわけでもない」(換言すれば、精神鑑定に回すような支離滅裂な主張とも言えない)という点があるからです。
この映画はいくつかの見方ができると思いますが、どの見方をするとしても、個々人(私人)の問題ではなく、究極論は国民(便宜上、外国籍でも長く住んでいる方等も含む)に対する国策の問題であり、私人がどうこうするには限界がある事案です。個人が頑張ったからといって、高齢化問題が収まるわけでもなければ、(程度差はあっても)「こういう事件を起こさないようにしましょう」というのも無理があり(「一応」、主人公の主張も「一応」理解はできる)、「では何を述べたいのか」という点、つまり「メッセージ性」がはっきりしないところです(仮にわかっても、一個人にどうこうできる範囲ではない)。この点は、2022年の「ある程度」同趣旨の「PLAN75」にも通じるところがあります。
この映画は東京テアトル系列の配給で、テアトル系列さんの映画といえば、「はい、泳げません」のように、「メッセージ性が明確で何を述べたいかわかる」ものが多いです。この映画も確かに「メッセージ性は明確」ではありますが、では「個人(私人、換言すれば、国ではない個々人ということ)が何をできるか」という点については言及がまったくなく(まさか、介護センター等を申し込むときには口コミサイトを見ましょう、というのは無理がある)、この点「映画の趣旨は理解できるが、では何を問題提起したいのか」という点がはっきりしないところがあります(仮に問題提起があるとしても、個人でどうこうできるものではない)。
採点に関しては下記を考慮して4.7を4.5まで切り下げています。
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(減点0.3/メッセージ性が不明確)
・ この点は上記にも書きましたが、「趣旨もわかるしメッセージ性もわかるが、ではこの映画を見た当事者が何をできるか」という点の問題提起は皆無で(まさか、トラブルがおきないように高齢者介護は個人でみましょう、とかという取り方は無理)、「では具体的に何をどうすればよいのか」という点はわかっても、「それは国の国策のレベルであり、映画館に来る個々人にどうこうできることではない」という点に大半つきます。
ただ、そのように「個人ではどうしようもない問題を扱っている」とはいえ、「言いたいこと自体は理解できる」ので、減点幅はこの程度です。
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(参考/減点なし/生活保護について)
・ 生活保護は「申請」が必要ですが(生活保護法)、申請は、形式不備などを除けば、行政(ここでは、都道府県なり市町村の福祉課等)に「受け取らない」ということは通りません(行政手続法)。映画内で描かれているのはいわゆる「窓際作戦」ですね。
このような「不親切な自治体」があまりにも多いので(この点はリアルでも問題視されている)、「常識的に見て明らかに申請が通ることが明確で、かつ行政が受け取りをしない」といった場合、弁護士か行政書士(特に行政書士。行政に対する手続きの代行、同行は行政書士がメインに扱います)が行けば、「行政手続法上、申請を拒否する権限(行政手続法上、「申請の拒否」という概念が存在しない)は個々の公務員にはない」ということは明確なので、映画内の適当な描写はまずいです。
※ したがって、弁護士や行政書士の方が同席してちゃんと説明すれば、「申請すらうけつけない」ということはなくなります(そもそも行手法上、「申請を受け付けない」という概念が存在しない)。
彼はなぜ42人も殺さねばならなかったのか?
おそらく誰もが通る道
医療が発達するに従いいわゆる延命が可能となり、介護はある意味避けて通れない命題のようなもの。
長澤まさみ演じる検事のようにお金に余裕があり介護をサービスで解決する場合もあるだろうが、深く日本の社会に根付いている問題で誰も目を逸せないだけに深くこころをわしづかみにされて考えさせられる作品だと思う。
目を背けて見て見ないふりをする事が出来るのか。
松山ケンイチも長澤まさみも抑えた中で溢れる感情がすごい良かった。
あと柄本明さんの演技がすごかったなぁ。。
介護疲れで放心してた戸田菜穂さんの最後法廷でのシーンも印象的でした。ビクってなった。
後半は映画館あちこちで啜り泣きが聞こえてたけど、きっと他人事じゃなく身につまされちゃう人もいそうだなと思いました。
来年のアカデミーじゃないかと
42人の高齢者殺人は、天使の仕業か悪魔の仕業か?
予告編やチラシで、「42人連続殺人犯VS真相に迫る検事」というキャプションが踊っていたので、観る前はひょっとすると猟奇殺人物なのかなと思ったりもしたのですが、実際に観てみると全く違っていて、超高齢化社会となった日本の抱える過重な介護問題とか、公的支援のあまりの少なさを訴えた力作でした。一応ミステリーに分類されていますが、警察や検察が殺人事件の犯人を突き止め、犯行の方法や動機を解明していくという意味ではミステリーと言えますが、実際はミステリーという形態を非常に上手に使って、まさに前述した介護の問題だったり、人の生死に関わる話を考えさせる展開になっており、極めて質の高い作品だったと思います。
キャプションにもあるように、松山ケンイチ演ずる介護ヘルパーの斯波は、合計42人の老人を殺害します。内訳は、病気で寝たきりとなった自分の父親を皮切りに、仕事で介護を担当していた老人41人の合計42人という訳ですが、本作のテーマとしては、この斯波の行為が、「天使の仕業なのか、悪魔の仕業なのか」ということを問うていました。これは比喩表現でもありますが、同時に映画の冒頭で「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい。これこそ律法と預言者である。」(マタイによる福音書7章12節) という聖書の一節を紹介して物語が始まることから、宗教観も絡んだ非常に重層的なテーマでした。
事件直後の現場付近に設置された監視カメラ映像に斯波が写っていたことから斯波の犯行が疑われ、長澤まさみ演じる検事の大友が取り調べを行う。この過程で、大友は通り一遍の正義や法秩序を振りかざして斯波を有罪に持ち込もうとしますが、実はその大友にも、認知症を患って高級老人ホームに入所している母親がいる。父親は大友が幼い時に離婚していたが、後々驚くべき事実が明かされることになる。
それはさておき、斯波は取り調べの中で、自らの父親が病気で動けなくなったことをきっかけに仕事を辞め、自ら父親の介護をしていた経験を語る。収入は父親の僅かな年金のみ。それも家賃と光熱費を払えば殆ど消えてしまうため、満足に食うことも出来ない極貧状態。そこで生活保護を申請しに行くものの、「あなた(斯波本人)が働けばいいので、生活保護は受け取れません」と窓口ですげなく断られてしまう。その結果、タバコから抽出したニコチンを注射する方法で父を殺害するに至る。
そうした経験から、斯波は「この世の中には穴が開いている。穴に落ちたら抜け出せない」、「大友検事はじめ世間は自己責任だと言うが、そういう人は安全地帯から話をしている」といった話をする。
一方の大友検事は、斯波と同じく親一人子一人という境遇ではあるものの、母親は高級老人ホームで何不自由ない生活をしている。確かに斯波の指摘通り、大友の通り一遍の正義や法秩序など、安全地帯で宣うお気楽な建前論とも思えてくる。
そうした斯波と大友のやり取りを軸に物語は展開していきますが、ラストで刑務所(もしくは拘置所)の面会室で仕切り越しに行われたこの二人の会話は、本当に心動かされました。判決内容は分かりませんが、恐らくは最終判決が下っていると思われる段階での面会でしたが、ここで大友は自分の境遇と反省を斯波に初めて打ち分けます。まるで教会の懺悔室で神に懺悔するかのように。勿論神は斯波(斯波はクリスチャンという設定なので、宗教は違うけど、「斯波」という名前は「シヴァ神」から来てるのかな?)。
大友は、母親を老人ホームに入れたことをはじめ、幼い時に離婚して離れ離れになっていた父親から連絡がありつつも無視をしていたこと、連絡から数か月後、父親が孤独死して腐乱した状態で発見されたことなどを、反省を込めて斯波に語ります。斯波は取り調べの際に、大友は穴に落ちていないと指摘し、そんな大友に自分のことを理解できる訳もないと言っていましたが、実は穴に落ちていないと思われた大友にも、それなりの苦悩があったということで映画は終わります。
いろいろとストーリーまで話してしまいましたが、現代日本が抱える問題を、ミステリーという娯楽作品に投影して分かりやすく観客に提示し、考えされるという展開は、実に見事でした。
去年「PLAN75」という倍賞千恵子主演の映画がありましたが、あれは75歳になったら自ら死を選択できるという制度が出来た近未来映画でした。「PLAN75」の製作者は、もちろんこうしたディストピアのような未来が到来することを予測させる兆候を嗅ぎ取った上で作品化していた訳ですが、この「75歳になったら自ら死を選択できますよ」という制度は、独居老人の悲哀とか過重介護に苦しむ本人や家族の問題を、上(国家)から解決しようと試みる制度と言えるでしょう。
ただこれは、社会保障費用を圧縮しようという上(国家)の都合や、75歳以上の人を死なす国家事業すらも、何処かの人材派遣業者や広告代理店のような企業が儲けの種にしていることが描かれており、要は一般庶民の側に立った解決策を偽装しながら、実際は安全地帯の連中による安全地帯のための施策であるように思えました。
一方で本作で斯波が行った行動は、いったん落ちたら這い上がることの出来ない深い深い穴の中の苦しみを、穴に落ちてしまった当事者が自ら解決しようとしたものと言えます。つまり下からの解決です。ただこの解決方法は、PLAN75のような上(国家)からの解決法ではないため、普通に犯罪行為となり、場合によっては死刑になってしまうかも知れないという、なんともやりきれないものでした。というか、ここまで来るとまさに宗教の領域であり、つまりは下からの解決策を個々の人間が下すことは、実際には無理というところでしょう。
そうした意味で、「PLAN75」と本作は、現代日本の問題を全く正反対の方向から眺めた作品で、高齢の親を持つ自分としても、グサッと刺された感のある映画でした。この二つの作品とも、じゃあどうすればいいのかと言った具体的な解決策が明示されている訳ではありません。ただ先ほども触れたように、本作では斯波が生活保護申請をいったものの、断られてしまう下りがあります。あの場面も参考にすれば、直接的な公的扶助をもっと強化することはもちろん、低賃金で人手不足と言われる介護業界の賃金水準を引き上げるなど、国としてやれることはいくらでもあるのではと思います。国家財政が逼迫していることや、個人の問題は自己責任だということを理由に、こうした措置に反対する向きもあるでしょうが、防衛費を2倍にすることが出来るなら、社会保障費も増額することは可能じゃないのかな、と思うところです。
最後に、本作とは全く関係ありませんが、直近に公開された「シン・仮面ライダー」でサソリオーグとして登場した長澤まさみが、本作では松山ケンイチとともに主人公の大友検事を演じ、実にいい演技をしていました。サソリオーグは、派手な登場の割にあっさりと退治されてしまい、一部では長澤まさみの無駄遣いとも言われていましたが、本作で全く毛色の違う役柄を演じ、幅の広いところを魅せてくれました。
全444件中、381~400件目を表示