「制度設計は慎重に」ロストケア penさんの映画レビュー(感想・評価)
制度設計は慎重に
1年半要介護の母(94歳)と生活をともにし、つい最近失った者として、果たして冷静にこの映画と向き合うことができるだろうか?と少し危惧しましたが、共感できる点共感できない点それぞれあり、意外に大丈夫でした。シリアスなテーマを扱った映画ながら、きちんとエンタメの要素もおりまぜて飽きさせない工夫があるのが功を奏しているのでしょう。(以下ネタバレありです。)
多分主人公の原体験にあったのは、「自らの死を望んだ」父の言葉を聴いたときの衝撃だったのだと思いますが、実を言うと私の母も同じような言葉を発したのは一度や二度ではありませんでした。
介護保険制度はありがたいです。訪問介護には本当に助かりました。まさにエッセンシャルワーカーです。が、会社の仕事を実家在宅で消化しながらの下の世話とか家事一切はそれなりに大変ではありましたので、「その言葉」を聞くときは「これだけ一生懸命やってあげているのに」と寂しさと一抹の悔しさ・怒りがないまぜになった気持ちでブルーになることも多かったです。(最近鑑賞した、フランソワ・オゾン監督が描いた安楽死を巡る「すべてうまくいきますように」にもそうしたシーンがあリ、大変共感しました。)
なので、純粋な主人公が「その言葉」をきっかけに、涙ながらに「その行為」に走ったことは、環境や人によっては、ありうるかもしれないなと思いました。その点が共感した点です。
しかしながら、例えば私の場合、幸いにして母からは、同時に「幸せだった」や「いつもありがとうね」の言葉があったのです。毎日お互い冗談や軽口もありました。なので、「その言葉」もそうしたものに中和されて、母との大切な最後の時間の1シーンとして、少しビターではありますが私の中の幸せな記憶の一つとして刻まれています。なのでそうした行為に繋がる余地は少なくとも私の心の中には、1ミリも発生しませんでした。多分例外はあるかもしれませんが、多くの要介護者を抱える家族も同じ気持ちなのではないだろうか。そう思いました。
斯波と比べるといろいろな意味で恵まれていたのだと思いますが、聞くところによると要介護者の安楽死願望は珍しくはないそうです。なので安易にその願望を充足させる行為を「善意として」行った斯波については、やはり共感することはできませんでした。
日本にもスイスのような安楽死立法を目指す動きがありますが、仮にそうしたものが実現するにしても制度はやはり慎重に設計すべきではないか・・・そんな風に思いました。