劇場公開日 2023年3月24日

「「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい」 マタイによる福音書 7章12節」ロストケア 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい」 マタイによる福音書 7章12節

2023年4月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

松山ケンイチと長澤まさみの丁々発止。人の死は誰のものなのか、と自問させられる。斯波の行為は犯罪である。しかし、道義的にはどうなのか。それで救われた人はいるのかいないのか。当事者はそれを知っても感謝するのか非難するのか。立場が異なる人の数だけ、答えがいくつもある難問。それでも殺人は決してダメだ、といいきれない虚しさ。
同じテーマを扱った小説「命の終わりを決めるとき」(朔立木)を思い出した。こちらは限りなく"尊厳死"という課題に寄った内容だった。映画にもなった。この先、生きていくとき、その"生"が、自分にとって、周りの家族にとって、けして好ましい状況だと思えないとき、死を選ぶことの難しさ。目の前にあるその"死"を決めるのは、本人なのか、家族なのか、事情をよく知る他人なのか。はたまた、偶然という名を借りた"神"なのか。
「人には、見えるものと見えないものがあるんじゃなくて、見たいものと見たくないものがあるんだなって。」と言っていた。信じたいものと、信じたくないものもある、と思った。この映画を、いま現在、"絆"という"呪縛"に縛られている人が観た時、はたしてどう感じるのだろうか。でも、そうやって自分の時間も感情も抑え込んで人のために働いている人たちは、一本の映画を観る余裕さえもないのかもしれない。

栗太郎