劇場公開日 2023年3月24日

「落とし穴に落ちた神の裁き❗️」ロストケア アローさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0落とし穴に落ちた神の裁き❗️

2023年3月30日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

これほどまでに引き込まれるとは思わなかった。映画館で涙がボロボロ出るなんて久々だ。
42人の老人を殺した介護士の斯波(松山ケンイチ)と対峙する検事の大友(長澤まさみ)を通して、過酷な介護という現実とその家族の幸せと不幸を考えさせる秀逸なサスペンス。
斯波の最初の殺人は実の父親。これだけは嘱託殺人なのだが、これをキッカケに彼はロストケアが善であり、神に近い行為という感覚を得たのではないか。対する検事の大友は決して公私混同してはいけない立場だが、自らの脛の傷もあり、徐々に斯波の言い分と遺族の以外な言葉のなかでもがき苦しむ。殺人は勿論大罪だが斯波のことを私は憎むことも、賞賛することも出来ない。今の日本が抱える闇を落とし穴に落ちた人間と安全地帯にいる人間模様を通して描いた見事な作品。昨今「親ガチャ」という言葉をよく聞くが、それの介護版といった感じだろうか。心に深く深く刻まれる重厚なドラマでした。松山ケンイチは信頼の厚い介護士と検事を淡々と論破する殺人鬼を見事に演じました。長澤まさみさんは職責と私人の間で揺れ動く心を見事に演じました。特筆したいのは斯波の父親役の柄本明。とんでもない演技というしか言いようがありません。人間国宝です。親子の別れのシーンが一番泣いた瞬間でした。ちょい役ですが刑務所に入りたがる関西オバチャン演じた綾戸智恵さんはこの作品の重要なパーツだと思った。やす(ずん)の自然な演技も良かった。折り鶴に込められた親子の絆。人間の尊厳。長寿。介護。認知症。離職。行政。格差。などなど様々なメッセージを見事な脚本で繋ぐ刺さる映画でした。さもありなん。

アロー