劇場公開日 2023年3月24日

「救ったのか殺したのかではなく殺して救ったのである」ロストケア たあちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0救ったのか殺したのかではなく殺して救ったのである

2023年3月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

知的

難しい

原作はミステリー小説なのだが本作は推理というかなりおいしい部分をそっくり捨てて松山ケンイチ演じる介護士が42人を殺害したことをあらかじめ観客に知らしめた上で物語を展開しており「羊たちの沈黙」や「死刑にいたる病」などのサイコサスペンスへの期待もバッサリと裏切る真摯極まりなく身もふたもない「社会派」といってもとうてい足りない大問題作である。救ったのか殺したのか、という問いかけが惹句にあるのだがこの映画を見る限りどちらも正解としか言いようがない。検事の長澤まさみから見れば紛れもなく殺人でそれはイコール犯罪なのだが自宅介護で疲れ果て金が無くてホームに入れたくても入れられない家族にしてみれば救い以外のなにものでもない。本来なら国が金持ちからもっと税金を取って貧しい民の老人介護費を公的に支援すべきなのだろうがここにきてネオ資本主義があからさまに正当化され経済格差が広がり続ける日本においては「老人の集団自決」が称賛される日もマジで遠くは無い。うわべの超高齢化が問題なのではなく格差容認自己責任追及民間ホドコシ善意依存型社会こそが問題なのだろう。松山ケンイチのあまりにも純粋で真っすぐなまなざし、長澤まさみが母親との長回しシーンでごく普通の会話から入ってここぞというタイミングで落涙するリアル、主役お二人の演技も見ものだが柄本明がその10倍上をいくとんでもない演技をしていて(未だ3月だが)今年の助演男優賞は確定である。

たあちゃん