劇場公開日 2023年3月24日

「ロストケアという殉教行為」ロストケア グレシャムの法則さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5ロストケアという殉教行為

2023年3月25日
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鑑賞方法:映画館

この映画の成功(と私は思ってます)の要因は、なんと言っても、原作では男性の大友検事を長澤まさみさんが演じたことです。
犯人とのやり取りの中で、次第に実態を失っていく正論は、凛とした佇まいの長澤まさみさんを通すことで、重たい現実に飲み込まれてあやふやなものになっていく〝理想の脆さ〟を際立たせます。生半可な男性検事だと正論や理想論が始めから胡散臭く見えかねないと思うのですが、長澤さんが語ると、取り敢えずは、ふむふむ、そうだよなとなります。
憧れの先輩に理想を見出していたけれど、介護現場の現実の重みに耐えかねて壊れてしまった由紀との並列対比が、後半への伏線でもあったのだと思います。

なぜ国家は(戦争や死刑という形で)人を殺していいのか。人が人を殺すのは、理由を問わず禁じられているのに。

罪悪感(=親を殺す)という呪縛から、解き放ってあげることがロストケアである、と信じる斯波が迎える最期は、いわば〝殉教〟であり、本人にとっては望むべき姿。だから、その覚悟が潔く映る。

正解など無いと分かっている重いテーマだけに、
『護られなかった者たちへ』と同様に、後味は苦いけれども、心を揺さぶられるし、乱されもする。
安全地帯にいて倫理を振りかざすこと。
穴の底にいる者ならば、国家にしか認められていない殺人という行為が許容されるのか(法律上、国家のみに与えられた特権を行使する者への処罰の妥当性)。

あーでもないこーでもない、と考えるのが好きな方には必見の作品です。

グレシャムの法則
印刷局員さんのコメント
2023年4月5日

原作の解説、ありがとうございます

印刷局員
2023年4月1日

長澤まさみさんは芯の強い女性を演じていて、介護士の宗典は二面性があり2人の会話は重みがありました。尊厳死と言う言葉がありますが自分の最期、どう在りたいかについて考えさせられました。為になるレビューをありがとうございました❀

美紅
2023年4月1日

殉教行為とは、信仰のために命を捧げることなのですね。聖書が関係していたのでしょうか。

美紅
2023年4月1日

原作の小説では、大友検事が女性ではなく男性だったのですね。

美紅
2023年4月1日

グレシャム様のレビューを映画観た後に改めて見ると新しい発見がありました。

美紅
2023年3月27日

千葉のイオンシネマにてこれから観ます!
感想は後ほどします❀

美紅
2023年3月27日

こんにちは。グレシャム様☆

美紅
Bacchusさんのコメント
2023年3月27日

原作の由紀ちゃんはそんな変遷があるのですね!
映画では憧れ(下手したら恋心まで!?)の斯波にショッキングな裏が…からの堕ちるところまで、みたいな極端過ぎるお約束の様に感じました。

Bacchus
光陽さんのコメント
2023年3月26日

あーでもない、こーでもないと考えてしまいました。
答えはでませんでしたが。

光陽