劇場公開日 2023年3月24日

「ロストケアは悲しいラストケア…」ロストケア おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5ロストケアは悲しいラストケア…

2023年3月26日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

難しい

原作未読で、内容は全く知りませんでしたが、主演の二人の演技合戦を期待して鑑賞してきました。期待どおりの演技と練られた脚本で作品としての満足度は高いですが、内容は鑑賞後も深く考えさせられるものでした。

ストーリーは、ある民家で認知症老人とその訪問介護を請け負っていた施設のセンター長の死体が発見され、心優しく誰からも慕われる介護士・斯波宗典が犯人として浮上し、取り調べに臨んだ検事・大友秀美が同様の死亡老人のデータを分析して詰め寄ると、斯波は自分の犯行を認めるものの、それは「救い」であると主張し、二人の信じる正義が激しくぶつかり合っていくというもの。

劇的な場面はほとんどなく、物語は淡々と進行していくように見えますが、一つ一つの場面から登場人物の背景や思考が窺い知れ、それが本作のテーマに密接に絡んでいるため、ぐいぐい引き込まれていきます。圧巻だったのは、取り調べシーンで見せる主演二人の演技のぶつかり合いです。その役の人物背景から発せられる説得力のある言葉が、もはや演技を超えているとさえ感じさせます。

そんな中、終始押され気味の検事・大友が感情的に声を荒げます。それは理詰めで論破されているからではなく、彼女自身の後ろめたさや現在の状況に起因していることが、ラストで明かされます。そして、その布石が冒頭のシーンにあったことに気づかされ、構成の妙を感じます。

本作は、厳しい介護の現場をまざまざと見せつけますが、私自身は介護経験はなく、知人の話やテレビで見知った程度の知識しかありません。私のように本当の意味での介護の苦しさを知らない人は多いと思うので、それをこうして本作で突きつけられたことに衝撃と意義深さを感じます。本作が、実際に介護で苦しんでいる方の背中を間違った方向に押すことはないと思いますが、行政の側には真剣に現行制度を見直すなり何らかの方策を打つなりするきっかけとなってほしいと切に願います。

超高齢化社会へ突き進む我が国において、介護問題は目を背けてはいけない喫緊の課題です。そんな課題に対して、斯波が出した答えの一つがロストケア。しかし、これは取り返しのつかない、もう後がない最終手段。ラストケアがロストケアだなんて悲しすぎます。では、どうすればよかったのか。その答えはわかりません。わからないからこそ、議論し模索し続ける必要があるのだと感じます。救いのない闇の中でもがく人、もがく気力さえ失ってしまった人たちがいることが本当に切ないです。

主演は松山ケンイチさんと長澤まさみさんで、二人の迫真の演技が秀逸で、介護問題の深刻さを際立たせています。特に松山ケンイチさんにいたっては、揺るぎない自身の正義に従う斯波を圧倒的な存在感で演じきり、役の上でも実力的にも長澤まさみさんを凌駕していたように思います。脇を固める柄本明さんも、主演の二人を引き立たせる抜群のアシストで作品に奥行きを与えています。坂井真紀さん、戸田菜穂さんらも、被害者遺族を好演しています。

おじゃる
2023年4月20日

共感ありがとうございました☆

美紅
こころさんのコメント
2023年4月10日

おじゃるさん
そうですね!
松山ケンイチさんの演技、録画して拝見させて頂きます (^^)

こころ
こころさんのコメント
2023年4月9日

おじゃるさん
コメントへの返信を頂き有難うございます。
端正な顔立ちの松山ケンイチさん、仰る通り「 静と動 」の見せ方、繊細な感情表現が本当に巧い役者さんですよね。
NHK大河ドラマ、 麒麟がくる 」と「 鎌倉殿の13人 」は録画して全ての回を観たのですが、今回は全く見ていないんですよね(泣)
松山ケンイチさんの演技だけでも見たいな。ひゃーー。

こころ
こころさんのコメント
2023年4月9日

おじゃるさん
松山ケンイチさん、内に秘めた感情をも表現する演技の巧さに魅せられました。
これからの活躍が本当に楽しみな俳優さんですよね。

こころ