劇場公開日 2022年10月21日

「「どうせ筋肉もりもりの男たちがいちゃいちゃする話なんでしょw」と侮っていたかつての自分を、両手持ちの二丁小銃で蜂の巣にしてやりたくなる作品」RRR yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5「どうせ筋肉もりもりの男たちがいちゃいちゃする話なんでしょw」と侮っていたかつての自分を、両手持ちの二丁小銃で蜂の巣にしてやりたくなる作品

2022年10月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

3時間とかなり長尺なんだけど、『バーフバリ』二部作からさらに磨きのかかったラージャマウリ監督のストーリーテリングと色々な意味で高密度な映像のため、結末まで存分に楽しめます。インド映画やラージャマウリ監督のファンだけでなく、予告編に心動かされた人であれば誰でも楽しめる大作となっています。

…と言いたいところなんだけれど、『バーフバリ』二部作が架空の王国を舞台とした、神話物語として観ることができた一方で、『RRR』は約100年前の、イギリスによる植民地統治下の近代インドの物語で、主人公二人も実在の独立運動の英雄をモデルにしています(実際の彼らはこんな筋肉もりもりじゃない上に、面識もなかったそうだけど)。そのため『バーフバリ』ではどれだけ敵の兵士がなぎ倒されようが首が飛ぼうが、一種のファンタジーとして解釈できるけど、本作でイギリス兵に痛めつけられる人々、主人公に蹂躙されるイギリス兵の描写はかなり生々しく、現実感があります。そのため流血表現が苦手な人にだけは、事前の心構えをおすすめしたいところです(本作がG指定なのに、『バーフバリ』[2015]がR15+指定なのは一体なぜ!?)。

それとイギリス統治下において、植民地政府を支える官吏として多くのインド人が働いていた、という事実があったことも頭に入れておけば、主人公のひとりラーマ・ラージュ(ラーム・チャラン)の立場がすんなり理解できると思います。

ビームとラーマの友情、というよりも、いちゃいちゃぶりがどの程度描かれるのか、半ば期待していたんだけど、予想を上回る濃厚さ!ただこの要素も後半の盛り上げのための手掛かりとしているあたりはさすがです。そして中盤に展開される圧倒的なナートゥダンスは、インド色を前面に押し出すのではなく、そこにもうひと味加えることによって、一層迫力ときらびやかさを増していて、さらに高揚感を高めています。画面を埋め尽くす大群衆と併せて、この場面は大スクリーンだからこその醍醐味を存分に味わうことができます。さらにこの場面は、ロシア-ウクライナ戦争前のウクライナの首都キーウで撮影されているとのこと。それを知った後でその壮麗かつ歴史的な建築物を想起すると、また別の感慨が増します。

主人公二人に敵対する大英帝国(イギリス)植民地政府の統治者達は、紛うことなき悪の権化として存分に残虐ぶりを発揮するんだけど、ラージャマウリ監督もさすがにそれだけじゃまずいと思ったのか、インド人に心を通わせる人物も登場させて描写上のバランスを取っています。ただやはり扱いが難しかったのか、この人物の行動原理が少し不明確で、ここだけが本作の中で(ほんのわずかな)引っかかりとして残りました。役割としては重要なんだけど。

インド独立運動を扱っているため、物語にナショナリスティックな傾向が加わること自体は必然性があるんだけど、その思想的な称揚はエンディングにとどめておいて、本編ではどちらかというと、「こんな超人的に戦闘能力の高い英雄がイギリス人をなぎ倒してくれたら、先祖の苦しみも軽減されたのに…」という「実現して欲しかった歴史」を願う痛切な思いが伝わってきます。これが単なるスッキリ爽快ではとどまらない、ある種の余韻を残した結末に繋がっています。同様に歴史上の悲劇を救済したいという願いを込めた作品として、『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』(2019)を連想してしまいました。内容的には全く異なるけど。

ラージャマウリ監督は影響を受けたと公言する作品、監督の中に、香港映画関連を特に挙げていないようだけど、後半のアクションはどう見ても香港ノワール作品では…。ただこっちは、拳銃から小銃に火力アップ!ビームがチョウ・ユンファに見えそうになりそうなところ、体格が違いすぎてそうはならなかった…。

yui