「まさに生き地獄な喜劇」ドンバス osmtさんの映画レビュー(感想・評価)
まさに生き地獄な喜劇
もっと突き放したブラックな笑いテンコ盛りと勝手に思ってたが、あまりに淡々と醜悪な出来事が次から次へと続いて、笑うに笑えなかった。
というか、そもそもブラックな娯楽映画などでは全く無かった。
あくまで「実話」を元に理不尽な喜劇のようなエピソードをフィクションとして描くことによって、現実の戦争をリアルに体感させたかったのかもしれない。
よって、劇映画として作られてはいるが、殆どドキュメンタリーよりもリアルに見える。
相当に突き放したドキュメントなタッチの様々なエピソードが続き、現場の状況を説明するナレーションなども入らず、キャプションも最低限しか入らないため(それゆえに現場を直視しているようなリアル感は増すのだが…)わかりやすさには欠け、観る側が臆測する他なかったりもする。
せめて冒頭のフェイクニュースに関しては、ウクライナ軍による市民への攻撃が捏造撮影されるだけでなく、直ぐロシア系のニュース番組から報道されるシーンなどもあれば、よりフェイクも際立ち「掴みもオッケー」な導入となり、随分と分かりやすくなったのでは?と思う。
その後の地下シェルターのエピソードで、このフェイクニュースはテレビ放送されていたようだが、フェイクの欺瞞を晒すには、あれだけでは少し物足りなく感じた。
そしてラストでは、その冒頭のフェイクニュースのキャストもスタッフも、役割が終わったことにより、あっけなく全員が銃殺されてしまう。
そして殺された彼らは、新たなフェイクニュースのネタとして、直ぐに別稼働の制作チームの素材とされてしまうのだが、この制作チームもまた似たような運命を辿るのかもしれない。
この無間地獄の堂々巡りが、まさに今のこの地域の現実を象徴しているようにも見えた。
出来れば、ラストのフェイクニュースの撮影時、あの淡々とした長いロングショットの中で、呆れるほど何度も様々なパターンのテイクを重ねて、延々とディレクターがダメ出しを繰り返すとか…
そんな毒の効いた失笑ネタもあった方が、もっと良かったような気もしたが、そもそもコメディ映画として着地する気など最初から全く無かったのだろう。
ちなみに、本作はロシアの欺瞞を暴くというより、あるいはウクライナにとっての敵は?味方は?といったことよりも…
本当の悪はどこにあるのか?と、徹底的に人間のグロテスクな欲望へ入り込み、極めて批評的に理不尽な出来事の本質を炙り出そうとしているように見えた。
それは「実話」を敢えてフィクション化することにより、その結果、よりリアルに人間の本性の愚かさを露呈させ、恐怖や欺瞞や略奪によって支配された世界の中では、人は本当に滑稽なまでに醜悪な行動をとってしまうことを、十分過ぎるほど見せつけてくれた。
この監督の作品は、もっと他にも観たくなった。