「フェイクニュースが飛び交うウクライナ。しかし観るべき映画は他にも」ドンバス 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
フェイクニュースが飛び交うウクライナ。しかし観るべき映画は他にも
『アウステルリッツ』『粛清裁判』『国葬』というドキュメンタリー映画で秀でた手腕を発揮して来た監督、セルゲイ・ロズニツァが描く、彼にとっての母国、ウクライナ、ドンバス地方の軍事衝突を背景にした作品。と来れば、今まさに戦火の只中にあるロシアによるウクライナ侵攻の現場をリアルに映し出したものと思うかも知れない。しかし、中身はそうではない。
そもそもこれはドキュメンタリー映画ではない。2014年から続くウクライナの内戦を風刺的に描いた全13章からなる劇映画であり、その皮肉に満ちた作風が評価されて2018年のカンヌ国際映画祭の"ある視点"部門でロズニツァが監督賞を受賞しているのだ。
冒頭から、親ロシア派が演出するフェイクニュースで始まり、戦場が茶番劇の発信源と化して行くプロセスは、結果的にドキュメンタリーとドラマ、事実とフェイクの境目をあやふやにしているという意味で、ロズニツァが4年前に試みた異色風刺劇はSNS時代に於ける戦争の真実を言い当てていたとも言えるだろう。
しかし、これはロシアとウクライナの因縁の歴史を描いた映像作品の一部に過ぎない。他にも、1930年代にウクライナで起きた大飢餓"ホルドモール"の真実に肉薄する『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』(2019年)、"ホルドモール"に端を発する物語がスターリン政権の闇を浮かび上がらせる『チャイルド44 森に消えた子供たち』(2015年)、2013年にウクライナで発生した公民権運動、マイダン革命にカメラが密着したドキュメンタリー映画『ウィンター・オン・ファイヤー』(2015年)と、映像で収集すべき情報はたくさんある。
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