劇場公開日 2022年6月17日

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「関係者には心から敬意を表したい」君たちはまだ長いトンネルの中 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5関係者には心から敬意を表したい

2022年6月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 何度か、プライマリーバランスという言葉が出てくる。悪名高き御用学者がアメリカから持ち込んだ言葉である。この似而非経済学者は相当のアメリカかぶれで、同時に市場原理主義も持ち込んで、日本を徹底的な格差社会の貧しい国にした。
 経済オンチの小泉純一郎やアベシンゾーはこのお調子者に踊らされた格好だが、諫言を聞く耳を持たない彼らの自業自得である。いや、国民の声など聞かない彼らにとっては、自業自得だという自覚さえないだろう。アベシンゾーは未だにアベノミクスを否定されると怒るらしい。本人だけは、アベノミクスが失敗だということを理解できないようだ。

 現在進行形の政治の話なので、正解かどうか怪しい主張もあったが、アベノミクスが失敗であることと、消費税の逆進性、それにプライマリーバランスよりも国民の生活が優先することについては、正しいというより自明の理だ。
 給付金は不正受給を恐れてチェックを厳しくせざるを得ず、チェックのための無駄な予算を使うという馬鹿げた政策だ。消費税の廃止や税率の削減なら予算は不要だし、逆進性の反対だから貧乏人に優しい。
 それがわかっていれば貧乏な人は消費税を減らす政治家に一票を投じそうなものだが、本作品が指摘している通り、マスコミが大本営発表を繰り返すものだから、自分で調べたり勉強したりしない人はマスコミに騙されて与党やゆ党に投票したり、または選挙権を放棄したりする。

 格差を自覚している人も多いはずだが、小泉政権のときに例の御用学者が持ち出した「自己責任」という言葉の呪縛に捉えられている。生活が向上しないのは自分の努力が足りないからだと自分を責める。中には鬱になる人もいて、そうすると仕事ができなくなってますます困窮し、最後は自死を選ぶ人もいる。

 日本国憲法第25条には「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と書かれている。選択ではなく、権利なのだ。にもかかわらず困窮している人がたくさんいる。国民の権利を侵害するのがいまの政治なのだ。それどころか、憲法を教えないようにしているフシがある。代わりに道徳を正規科目にして愛国心を植え付けようとしている。国のために死ねという訳だ。権利は教えず、義務だけを押し付ける政治である。日本の有権者は自分たちを食い物にしようとする政治家にせっせと投票している訳だ。こんなことで子どもたちの未来はどうなるのだろうか。

 とはいえ、本作品のようなある意味で過激な映画を製作した関係者と、上映している数少ない映画館の方々は、とても勇気があると思う。心から敬意を表したい。

耶馬英彦