「音を埋める」ほとぼりメルトサウンズ 玉川上水の亀さんの映画レビュー(感想・評価)
音を埋める
東かほり監督による⻑編デビュー作は、アーティスト xiangyu(シャンユー)さんを主演に迎え、彼⼥が或る町で出会った⼈々との交流を軸にドラマが展開していく。
共演には鈴⽊慶⼀さん、平井亜⾨さん、宇乃うめのさん、坂⽥聡さんら多彩なキャストが集結している。
ヒロインのコトは久し振りに祖⺟の家だった空き家を訪れたが、何だか様⼦がおかしい。
家の庭には⾒知らぬダンボールハウスが建っていて、妙な⽼⼈が住み着いていた。
その老人タケは街の⾳を録っては⼟に埋める〝⾳の墓〟を作っていて、その奇妙な⾏動に興味を持ったコトはタケの⼿伝いを始める。
そこへ、家の⽴ち退きを要請しに訪問者である山田がやって来て、奇妙な共同⽣活が幕を開ける。
準主役である鈴⽊慶⼀さんの所属するムーンライダーズで「夢が見れる機械が欲しい」という楽曲がある。
その曲の中に「テープレコーダー 自分の声いれて 土の中へ 埋める」という歌詞がある。
正に本作そのもののような曲だが、映画はこの曲にインスパイアされて制作された訳ではなく、偶然の一致だったとのこと。
都会に住んでいると、沢山の音に囲まれていることを忘れてしまう。
その殆どがノイズだが、本作を観ているとノイズの中にも人によっては掛け替えのない「音」が存在するような気がする。
何故タケは、街の⾳を録っては⼟に埋めているのか?
その謎は終盤に向かうにつれ明かされるが、その過程においてコトを中心に、タケ、山田、更に山田の先輩である浩子も加わり、この不器用なりに生きる登場人物たちの交流が温かく描かれていく。
果たしてタケが目標とする全ての「音」が集まるのか?
本作は、限界集落という問題を提起をしながら、この社会で生きること、死ぬことについて我々に問い掛けているような気がする。