「あなたは○○のこ?」さかなのこ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
あなたは○○のこ?
さかなクンの自伝的小説の映画化。
さかなクンと言えば豊富な魚の知識とユニークな個性で愛されているが、かと言って半生が映画になるのか…。
なります。なるんでギョざいます。
ギョギョギョ!と驚きとギョギョギョ!とハッピーなミラクル・ムービー!
冒頭、魚を愛おしく見つめる女の子…?
この子が、さかなクンことミー坊。
演じるは、のん。
さかなクンの半生を描いているのに、のん主演で女の子…??
でも、ランドセルが黒かったり、男子の制服着たり、と言うか性別を明確にしていないような…?
開幕前にこんな言葉が。“男か女かはどっちでもいい”
そうなのだ。夢を追う事に性別など関係ない。
さかなクンの半生を忠実に描くのは誰だって出来る。誰かがあの被り物して、ギョギョギョと物真似。だけどそれだったら、ただの自伝映画。
さかなクンの魅力はそのピュアなひたむきさ。
本作が伝えたいのは、がむしゃらに好きなものが好き。人と違うはヘンじゃなく、素敵な個性。自分だけの道と夢を追い掛けていく。
さかなクンほど好きなものに没頭している人はそういない。
ただ好きってだけじゃなく、魚の事ならネットで調べるより詳しい。もはやその道の専門家、プロフェッショナル。
だけど、初めてTVに出た頃は、またまたおかしな奴が現れたと思ったもんだ。魚の帽子を被り、ハイテンションで甲高い声、ギョギョギョとヘンな喋り方をする。
今では、それがさかなクン。皆に愛されている。
が、殊にこういう人に関しては、子供の頃は決してそうじゃない。
子供の頃から無類の魚好き。見る事も描く事も食べる事も。寝ても覚めても魚の事ばかり。将来の夢はおさかな博士。
魚、魚、魚…。そんな我が子を、父親は心配。
このまま成長したらどうなるか…?
結果、心配は覆った。
夢のおさかな博士になった。自分の好きなものを極めた。
いや、今も極め続けている。謙虚に。
ようやく軌道に乗り始め、当初は魚のイラストレーターとして仕事が舞い込み、TVなどでユニークな個性が愛される人気タレントに。
タレント業はあくまで副業。本職はおさかな博士。大学の魚の教授に。
ある時凄い事が! 絶滅種の魚の再発見に貢献。その功績が称えられ、魚類学者でもある当時の平成天皇から御言葉が…!
あの魚の事が好き過ぎて将来を心配されてた子が、本当に夢を実現させ、さらには天皇陛下から称えられちゃったよ…!
これ以上ないサクセス・ストーリー。アメリカン・ドリームならぬジャパン・ドリーム。いや、フィッシュ・ドリームと言うべきか。
さかなクンを見てると、好きなものを好きで居続けられるって、何て素敵な事なんだろうと思わせてくれる。私も映画好きなもんで…。
でも当然、ここまでの道のりは平坦なものじゃなかった。あの明るいさかなクンにも苦労はあった…。
将来心配された子供時代。父親からは、ヘン。普通じゃない。
魚の事には詳しいが、勉強の方は…。もし本当におさかな博士になりたいなら、もっと勉強しないと。
だけど、どうしたらおさかな博士になれる…?
一人暮らしを始め、魚に関わる仕事をする。水族館、お寿司屋さん…。
何をやってもダメ。そのダメダメさはのび太くんレベル。それに、やりたかったものと違う…。
魚好きな事から歯医者に飾る水槽と魚のチョイスを依頼される。が、こだわり出過ぎて、コレジャナイ…。
ようやく馴染みのペットショップで仕事にありつけたけど…。
まるで小魚が大海で迷子になってるような…。
好きなものを追い続ける事は大切だけど、時としてそれが厳しい現実にぶち当たる事もちゃんと描いている。
大事なのは、ずっと好きで居続ける事。諦めない事。人の縁。…
子供時代に知り合った“ギョギョおじさん”。魚の帽子を被って、ハイテンションでヘンな喋り方で、お魚の事にとっても詳しい。まるでさかなクンみたい…と思ったら、ご本人が演じている。とってもいい人だけど、周囲からはヘンな奴。ある時誤解があって警察に任意同行されてしまったけど、ミー坊の将来の決め手になった人。
学生になっても変わらぬ魚好き。不良たちに絡まれる。が、ミー坊のピュアな心が不良たちを翻弄。見た目は“東京リ○ンジャーズ”みたいだけど、悪い子たちじゃない。不思議な事に仲良くなる。“総長”も実は魚好き。
ライバル不良チームと抗争…と言っても、ご安心下さい。『東京リ○ンジャーズ』じゃありませんから。魚が縁で彼らとも仲良くなる。
相手の喧嘩最強不良。誰かと思ったら、子供時代の幼馴染み。
この総長、ライバルチームのリーダー、幼馴染み…彼らと縁あって、ミー坊の人生が花開く。
総長とカブトガニの飼育。これに成功し、ニュースに!
ライバルチームのリーダーは寿司屋を開く。店の壁に依頼されて魚の絵を描いた所、これが大反響。イラストレーターとして注目されるきっかけに。
TVディレクターになった幼馴染み。彼の手掛けたTV番組に出演して有名に。
皆、いい奴。幼馴染みなんて、婚約者を紹介した所、将来おさかな博士になりたいミー坊を嘲笑し、ムッとする。人の夢を笑う奴なんて幾ら可愛くても好きになれない。
柳楽優弥、磯村勇勇斗、岡山天音の好演。
幼馴染みの女子とも再会。訳あってバツイチ子持ち。一緒に暮らし始め、初めて魚以外の事で楽しさや幸せを感じる。夏帆の好演。
人の縁が温かい。魚が繋いだ輪。さかなのわ。
そして、お母さん。魚好きのミー坊をずっとずっと優しく見守った。父親とは違って、我が子がとことん魚好きでも、それでいい。皆が皆同じじゃなくてもいい。個性を尊重。この支えとエールがあったからこそ。井川遥の好助演。
本作はのんの魅力無くして成り立たなかったと言っても過言ではない。
やはり最初は、さかなクンをのんが演じる?…と驚く。
だけど、さかなクンを演じられる人などいるのか…? いたとしても、先述の通りただの物真似になってしまう。
ならば、発想を変えて。誰なら演じられるかじゃなく、誰なら違和感なくいられるか。性別を超えて。
ピュアなさかなクンの姿が、のんの屈託のない魅力、唯一無二の個性、演技力にハマった。
本当に性別など違和感無くなってくる。そこには、好きなものに全身全霊の夢追い人の姿があった。
『あまちゃん』『この世界の片隅に』、そして本作と、一本一本の当たりがデカい。
諸事情で女優業をストップし、名前も変えたけど、再開。類い稀な才の快進撃はまだまだ始まったばかり。
のんもまた、夢追い人。
カブトガニの飼育、バイトを転々、ペットショップで働き、イラストレーター~TVタレントを経て、おさかな博士へ。
Wikipediaによると、さかなクンの半生に忠実なエピソードも。
それに加え、フィクションやアレンジも挿入。
のんの起用など、下手したら改悪失敗作に。
それを、見た後心温まる好編に。
そんな変化球出来たのも、沖田修一監督だからこそ。
『モリのいる場所』でもフィクション×ノンフィクションを織り交ぜ、全作品に共通するとぼけたユーモア、独特の作風、残る心地よい余韻…。
沖田修一ワールドは健在。いや、ますます絶好調。
主演がのんで良かったが、監督も沖田修一で良かった。
さかなクン×沖田修一×のん…奇跡のような巡り合わせ。
重ねて言うが、
好きなものを好きで居続けられるって事がどんなに素敵な事か、本当に教えてくれる。
好きに勝るものはナシ!
夢を追い続け、極め続ける事も。
決して自分がヘンと思ってはいけない。
そんな自分を誇りに、好きになって。
周りの縁に感謝を。
だからこそ自分の人生が好きになってくる。
いい映画だった。
さかなのこ。
この世界には、たくさんの○○のこがいる。
あなたは、○○のこ?
いいレビューでした。
> 皆、いい奴。
でしたね。そしてさかなクンの(のんさんの)周りにいたらこうなるかも、と感じさせてくれる、素敵な雰囲気でした。各俳優の好演にも同感!です。