劇場公開日 2022年9月1日

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「さかなクンになれなかった男」さかなのこ 卑猥堅さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0さかなクンになれなかった男

2022年9月6日
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「男でも女でもどっちでもいい」(うろ覚え)

 のんがさかなクンを演じることについてはまったく違和感がない。男役の設定で男装しているのに女そのものであるにも関わらず、だ。
 さかなクンの半生を描く映画なのだから男であることは必須に思えるが、実際はさかなクンの半生を叩き台にして「好きなものを好きであり続けること」を描いた映画と言った方が正しい。であれば男でも女でもどっちでもいいのである。主人公が男でなければストーリーがおかしなことになってしまうから男装させているだけだ。

 のんがさかなクンを演じていることがとかく目立つが、さかなクンが不審者を演じていることもこの作品の特徴である。というか、私はそれが肝だと思う。

 あのハコフグ帽子を被り道行く小学生に「お魚は好きですか~?」と声をかける姿は、我々がテレビで見るさかなクンそのもの。しかしさかなクンが存在しない世界では不審者そのもの。
 あれは好きなものを好きであり続けた者の末路である。
 小学生には「ギョギョおじさん」とあだ名を付けられ、保護者からは変質者扱い。財産を食い潰し定職にもつかず魚を眺めて暮らす。もしさかなクンがテレビに出ていなかったら……世間に認められていなかったら……というifの人物。
 一方、のん演じるミー坊は魚を好きであり続けた結果、チャンスを掴み仕事も名声も得ることとなるのだが、この差はなんだろうか?
 同じように魚を好きな気持ちを持ち続けて生きてきたというのに。

 この二人の対比こそがこの映画の見所だろう。
 好きな気持ちを持ち続けることの危うさ、好きを認めてくれる親や友達と環境……ちょっとした違いで成功者にも町の名物不審者にもなってしまう。
 この辺をユーモア交えて描いているので説教臭くなくてよい。

 好きなものを好きな気持ちを持ち続けることは大事だ。だが、ちゃんと勉強しないとギョギョおじさんになっちゃうぞ。

卑猥堅