「すべての“夢破れし者”へ」辻占恋慕 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
すべての“夢破れし者”へ
大きなくくりでは青春音楽映画ということになるだろうか。音楽に限定せずとも、演劇や映画、ダンス、お笑いなど表現者として“何者”かになろうと志し、ある者は才能や努力や幸運によって成功し、またある者はもろもろがうまくかみ合わずに挫折する。そんな表現者の栄光や挫折を描いた映画はこれまでにも多々あれど、「持たざる者たち」と銘打って青春の終焉を痛々しいほどに突きつける本作のようなタイプは意外に少ないのではないか。
細々とライブ活動を続ける三十路のミュージシャン、信太(大野大輔監督が自ら演じている)と月見ゆべし(早織)。対バンになった際に信太の伴奏をゆべしが買って出た縁で、信太は自身の夢をゆべしに託し、マネージャーとして彼女を売り出そうとするが…。
表現の世界でプロを目指すも挫折した人なら、2人の苦しさが痛いくらいに伝わるはず。数えきれないほどの“成就しなかった想い”への鎮魂歌のようでもある。小島藤子主演・桐生コウジ監督作「馬の骨」に近い要素も認められる。
早織によるギターの演奏シーンは吹替なしだそうで、猛特訓したのだろう。ただ、長年弾き語りを続けているという設定の割には、ギターのローポジションでのコードチェンジのたびに手元を見すぎ。基本的なコードはフレットに目をやらずに移行できていたら説得力が増していたのに、惜しい。
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