「派手なバイオレンスアクションとアメリカンジョークが新幹線と共に疾走し炸裂するも、すっきりしない」ブレット・トレイン Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
派手なバイオレンスアクションとアメリカンジョークが新幹線と共に疾走し炸裂するも、すっきりしない
世界に誇る日本の高速鉄道の新幹線を舞台にした、派手なバイオレンスアクションとアメリカンジョークが展開するスリラーとユーモアの作品。ヤクザ組織を乗っ取ったロシア人の“白い死神”の罠に嵌った色んな殺し屋たちが、走る密室の中で互いに探りながら入り乱れる。ブラッド・ピット演じるベテラン殺し屋“レディバグ”が病欠の同僚の代行で遭遇する、不運続きの顛末のメインストーリーに個性豊かな殺し屋たちが絡み、予測不可能な面白さと惚けた可笑しさがある。それと最後に新幹線が京都駅から暴走し脱線する荒唐無稽なクライマックスの迫力と脚本の伏線回収も、映画的に標準以上のレベルであろう。
しかし、折角全編に渡り新幹線の車内を殺し屋たちが縦横無尽に暴れ回る巧さを見せる反面、周りの乗客たちの無関心な反応始め、細部の拘りが無く最後まで違和感を抱えたままのもやもやした鑑賞になってしまった。車窓から見える風景からはブレット・トレインらしいスピード感を受けないし、車掌が通路で切符確認することはあり得なく対応の態度も悪い。車内販売の女性パーサーが“レディバグ”と“タンジェリン”の格闘に出くわすシーンでは、棚から商品を補充するも店員がいない。先ず喧嘩していることに驚かないのが不思議なのだが。一番の疑問は、京都駅の一つ手前の駅を朝の6時45分に明示していること。すると始発の東京は早朝の5時前になるのだが、そのようには見えなかった。このスピード感と乗員乗客の描き方、そして時間の経過以外にも、挙げればきりがない。鉄道オタクではないが、やはりすっきりしない。
良かったのは癖のある殺し屋を演じた俳優たちで、主演のブラッド・ピットは全然殺し屋らしくないが、ひどい目に遭いながら何とか生き延びる強運の持ち主を力まず演じていて風格もある。演技力より彼の存在感そのものが自然体の俳優の味になっている。このピットと絡んで素晴らしいのは、白人黒人兄弟?のイギリス人の殺し屋、“タンジェリン”と“レモン”を演じたアーロン・テイラー=ジョンソンとブライアン・タイリー・ヘンリーの御二人だ。このふたりの喧嘩しながらも仲の良さを窺わせるバディ振りが、この映画の大きな魅力となっている。“レモン”が(機関車トーマス)の熱烈ファンの設定も生かされている。経歴を調べてジョンソンがヘンリーより8歳も年下なのに驚いてしまう。ジョンソンの落ち着きとヘンリーの愛嬌、この一作で好きな俳優になりました。父親の愛情に飢えたドメスティックな殺し屋“プリンス”を演じたジョーイ・キングも、正体不明の怖さと少女の無垢さをメーキャップ含めて上手く表現していた。13歳の時の「オズ はじまりの戦い」(2013年)は観ているのだが(流石に記憶には無い)、この映画では不思議な魅力を最後のオチまで見せていて作品に貢献している。
ボトルウォーターやブームスラング・スネーク、特殊拳銃とブリーフケースと、人物以外の小道具もストーリーの中で活躍する原作・脚本の良さがあり、結果としては長短が混在してレビューをまとめるのがヤヤコシイ作品の感想になってしまいました。失敗作でもないが、成功作でもない。何とも曖昧な評価で終わります。