「一風変わった日本描写と登場人物が、一本道の弾丸列車を揺らしに揺らす。」ブレット・トレイン すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
一風変わった日本描写と登場人物が、一本道の弾丸列車を揺らしに揺らす。
○作品全体
ヘンテコ日本を舞台に、個性が強い登場人物と個性の強い世界観が主張し続ける。「運命」という言葉をキーワードに、登場人物たちの躍動が印象的な作品だった。
登場人物の少しハズした設定がまず目を引いた。おじさん臭い帽子と黒縁眼鏡のレディバグ(ブラットピットがこの格好というのがまた面白い)をはじめとして、ブロンドヘアーで日本の女子高生っぽい小物をまとったプリンス、ガタイの良い黒人でありながら『きかんしゃトーマス』を信奉するレモン。すこし歪な設定の組み合わせだが、それがヘンテコ日本ともマッチして、むしろ世界に馴染んでいるのが面白い。
そんな登場人物たちが繰り広げる、これまた個性的な会話劇と、それぞれが背負った運命は物語をアグレッシブに動かす動力源だった。東京から京都へ新幹線に乗って一本道を進むが、物語は停止のみならず、脇道にそれたり時間を巻き戻して展開される。そこには各々が新幹線に乗り込むに至る「運命」が描き出されていて、それぞれが自己について語るような構成が印象的。どの登場人物も立ち位置は違うのだが、肩入れしたくなるような導線の引き方が上手いと感じた。
最初は奇抜なアレコレに翻弄される作品ではあるのだが、その世界と登場人物を理解すると新幹線に集った運命の下で暴れまわる彼らを俯瞰して見るような、「整理された作品」として楽しむことができる。それでいてラストは「京都で終着する」という運命を捻じ曲げ、豪快に突っ走る新幹線がど派手で見応えあり。「運命」を軸にした物語としての面白さと、パンチの効いた設定が最後まで楽しめる作品だった。
○カメラワークとか
・作中に出てくる日本語は、どうしてもイメージで作られた日本語っぽくて鼻につくというか、くすぐったい。たとえば広告モニターに表示されてる観光系の広告には「友」とだけ書いてあったり。長年染み込んできた母国語だからか、ネットでよく見る「エセ日本語」臭を嗅ぎ取ってしまう。ただ、エンドロールの日本語の使い方は猛烈にかっこよかった。「監督」とか「音響監督」とか「ブラッド・ピット」とか、ゴシック体っぽいフォントだったけど、カタカナとか漢字の力強さが画面に溢れてた。本編とのギャップも相まって、ちょっと感動するくらいかっこよかった。
・登場人物が出てきた時にその名前を出す演出。文字演出は『ジョン・ウィック』でもあったし、デヴィット・リーチのお気に入り演出なんだろうな。『ジョン・ウィック』のときは絶望的にダサかったけど、本作だとヘンテコ日本と相性が良く感じた。
・アクションのアイデアの豊富さはデヴィット・リーチの良さがでてる。『ジョン・ウィック』では鉛筆を使ってたけど、本作では箸だったり、パソコンを使ったりシートベルトを使ったり。
○その他
・レモンとオレンジが回想シーンでヤクザと戦ったときに「また刀だ、なんでそんな刀使いたがるんだ」みたいなセリフを言ってたのが面白かった。それでもその後エルダーとか白い死神とかが結局刀使ってて、やっぱ刀アクションがみたいよな…と思ったりした。
・プリンス役のジョーイ・キングは日本のティーンっぽい格好をするとガタイの良さが目立っちゃってた気がした。
・序盤の翻弄される楽しさを味わってしまうと、少し物足りなさも感じる。新横浜でど派手に登場したウルフのような、自分の過去と世界を引き連れ「ブレット・トレイン」に挑んでくるカオス達を待ち望んでしまっていたのも確かだ。
・ブラッド・ピットの日本語の芝居がめちゃくちゃ上手だった。ぼそっと「どうも」とか「ありがとう」とか言う感じ、日本人っぽいなあと思った。逆に木村のセリフはちょっと「作られた日本語セリフ」っぽさがあったり。
・東京から品川までの近さとか、名古屋から京都までの山の間を縫うような景色とか、新幹線あるあるがちょっと感じられて面白かった。ただ米原あたりで富士山出しちゃうのは、クライマックスだから仕方ないと思いつつもうーん…ってなった。