劇場公開日 2022年9月9日

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「クライム・ムービーってやっぱりセンスが大事ね」グッバイ・クルエル・ワールド 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0クライム・ムービーってやっぱりセンスが大事ね

2023年3月10日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

怖い

単純

興奮

つくづく日本映画はタランティーノに成り切れないと思ってしまった。
別にそれを狙った訳じゃないかもしれないが、大金を巡るクライム抗争劇、クセあるワルたち、バイオレンスにクールな楽曲…どうしても連想してしまう。
一応それなりに面白味のある題材なのだが…。

ヤクザの資金洗浄が行われているラブホテルを強盗団が急襲。大金をゲットする事に成功したが…。
強盗団は互いの素性を知らず、一夜限りの結成。もう関わり合う事は無いと思われたが…。
ヤクザは癒着している刑事を使って追跡。強盗団に情報提供だけの利用されたラブホ従業員と裏切りに遭った一味の若い女を突き止めた事により…。

強盗団の面々、刑事、ヤクザ、若いカップル…各々の思惑が交錯。
取り分を巡って仲間割れ。
せしめた金で人生再出発と穏やかな日々を得ようとする者もいれば、金欲しさに新たな強盗計画に加担する者も。
ヤクザの金を盗んだらどうなるか…?
刑事も弱味を握られ、従うしかない。
若いカップルは自分たちを裏切った連中に復讐を…。

面白味はあるのだが、どうも弾けない。
こういうクライム・ムービーの定石は踏まえている。裏切り裏切られ、殺るか殺られるか、死ぬか生き残れるか…?
では、何が足りないのか…?
見てすぐ分かった。
センスの欠如だ。

登場人物たちもクセあるように見えてステレオタイプ。
彼らが織り成すギスギスした人間模様も型通りで、これといったユニークさに欠ける。
それから、圧倒的にユーモアやエンタメ性が足りないのだ。
その辺タランティーノは…いや、比較するのはよそう。タランティーノでなくとも三池崇史の『初恋』なんかは快作だった。
もっと快テンポかと思いきや、シリアス路線。
クールでイカしたクライム・エンターテイメントより、アウトローたちの顛末を描きたかったのだろうか…?
にしても哀切やスリルが感じられない。ただバンバン銃を撃ち、人が死に、血が流れるだけ。
何処かで見たシーンや演出の連続。古びたセンスに酔いしれ、カッコつけている演出や作風に温度差を感じてしまった。

西島秀俊が主演となっているが、アンサンブル色が濃い。
実質主演の西島秀俊のパートやキャラが弱い。三浦友和のパートとキャラも同じく。
キャラのインパクトなら極悪の斎藤工とリアル過ぎる奥野瑛太。
ドラマ面なら大森南朋演じる刑事か宮沢氷魚&玉城ティナのカップルの方が印象的。
この二人が斎藤工に復讐するシーンはスカッと痛快なのだが、素人二人があんなに容易く殺人カップルになれる…?

大森立嗣監督の作品は割りと好きだが、今回はまあまあ。『ゲルマニウムの夜』だけは全く受け付けず、あれよりかは酷くないけど。
この題材なのでエンタメ性の高いクライム・ムービーを勝手に期待した方も悪いが、作品自体も何とも言えず。
もっと突き抜け、エンタメに徹して欲しかった。

近大