「世の中の搾取構造を痛烈に批判する社会派クライムサスペンス」グッバイ・クルエル・ワールド 最凶線さんの映画レビュー(感想・評価)
世の中の搾取構造を痛烈に批判する社会派クライムサスペンス
タランティーノっぽいという前評判を聞いた上でこの映画を観に来ましたが、思ってたよりもタランティーノ要素は前面に出ていないように感じました。
たしかに、オープニングの現金強奪のシーンの編集とか選曲とかタイトルの出し方(字体は完全にパルプ・フィクション)はタランティーノっぽかった。
けれど、描かれてる物語自体はタランティーノっぽい明るくて笑えるような物語では決してなく、社会の底辺にいる人間がそこから這い上がるために命懸けの勝負を仕掛ける哀しいまでのクライムサスペンスだった。
まず、登場人物たちはそれぞれ色んな形で社会から搾取されていて、過去や周りの環境にがんじからめになっている。
例えば、西島秀俊演じる安西は旅館を経営してささやかな生活を送っているが元ヤクザという過去の呪縛から逃げ切ることが出来ていない。
奥野瑛太演じる元舎弟に強請られたり(奥野瑛太の現実に打ちのめされて自暴自棄になった人間の演技が凄まじかった)、商店街の仲間たちに元ヤクザということがバレて商売が出来なくなったりしてしまう。
他にも、玉城ティナ演じる援デリ嬢の美流は体を売る仕事から抜け出すことが出来ず、宮川大輔演じる美流の彼氏は投資会社をリストラされて作った借金で首が回らなくなっている。
そして、三浦友和演じる浜田はコンビニ経営をしていたがコンビニの運営会社に搾取をされた挙げ句に過労死で奥さんをなくしている。
人生の主導権を取り戻すために大金が必要な登場人物が多かったように感じます。
この映画の主題は明らかに、行き過ぎた資本主義が生み出した搾取構造に対する痛烈な批判だと思いました。
利用するだけ利用して用済みになったらポイ捨て。
人を良いように使って、得た利益は一切分配しない。
そんな搾取の構造がこの映画のなかでは何回も繰り返し描かれる。
そして搾取された側は搾取した側に復讐を試みるが、結局搾取をされてる人間同士で殺し合うだけで、最終的に搾取をする人間や搾取構造は一切ダメージを負っていない。
そんな虚しさすら感じるこの映画を観て、これはまさに今の日本で起きてることと全く同じだなと思いました。