「此処ではない何処かへ。{アメリカン・ニューシネマ}の系譜」グッバイ・クルエル・ワールド ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
此処ではない何処かへ。{アメリカン・ニューシネマ}の系譜
先日、「NHK」の〔ファミリー・ヒストリー〕を見ていて、
『麿赤兒』⇒『大森立嗣』『大森南朋』の系譜を知り
かなり驚く。
なるほど、なので監督の作品には
この二人が度々出演しているのだなと納得すると共に、
そこそこ重要な役柄を割り振られるのが多いことも理解。
さすれば、本作とて同様、
『西島秀俊』『斎藤工』『玉城ティナ』『三浦友和』の四人が前面に出る告知にはなっているけど、
そこに『大森南朋』がどのように絡むのかが楽しみに。
本編はヤクザ組織がマネーロンダリングのための集積所に
ラブホテルを使っているとの情報を得た件の四人組(プラス一名)が強盗団を組織し
急襲する場面から始まる。
その手際は見事なもので、一人の怪我人も(味方にも相手にも)出さずコトを終え、
あっさりと引き上げ、大金を手にする。
しかしその後がイケない。
ドライバーとして使っていた『武藤(宮川大輔)』をないがしろにしたことが禍根を生み
綻びを見せ始める。
加えてヤクザ組織に、本職の刑事『蜂谷(大森南朋)』が雇われていたことも誤算の要素。
彼はソフトな人当たりを見せつつ、持ち前の情報網を生かし、
一人一人と犯人達を炙り出して行く。
本作に特徴的なのは、主役が次々と入れ替わって行くこと。
最初は先の四人組の内紛劇かと思っていたら、新たにペアの物語りが派生し、
最後は旧知の二人のドラマに収斂する。
しかし、全ての登場人物に通底するのは、
寄る辺ない身の上であることで、
それが事件の背景に潜むのは何とも痛ましい。
右代表として挙げられるのは、元ヤクザとの身の上の『安西(西島秀俊)』か。
足を洗い、真っ当な暮らしをおくろうとしていても、世間はそれを許さない。
イマイマの時代の縮図でもあるのだが。
{アメリカン・ニューシネマ}彷彿とさせるシーンが
其処彼処に偏在するのも見逃せない。
車といい、音楽といい、ややあざとさを感じさせるほどで、
わけても〔Bonnie and Clyde(1967年)〕を想起させるエピソードには
かなりニヤリとしてしまった。
題名の「cruel」は「残酷」等の意味だけど、
発音そのまま「狂った世界」と読んでも通じるのは、なんとも面白い。
まぁ自分的には〔101匹わんちゃん(1961年)〕の『Cruella De Vil』を
どうしても思い出してしまう(笑)。