「られ活」かがみの孤城 かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)
られ活
悩める中学生とタイムリープの組み合わせは、最高興行収入邦画『すずめの戸締り』を想起させる。アニメーションの動きもどこかカクカクしていて、新海アニメのようなヌケ感のあるリアリティを背景画に感じないものの、原恵一監督のアニメにはドラマがある。累計100万部を売り上げている辻村深月の原作小説のもつポテンシャルもさることながら、やはり原監督の演出力がただ者ではない証拠だろう。
筆者は原監督が過去に手掛けた『カラフル』、『河童のクゥと夏休み』、『クレヨンしんちゃん、モーレツ!おとな帝国の逆襲』の3作品を鑑賞済なのだが、主人公はすべて子供ながら、実社会でもこういう奴絶対いるよね、という脇役になんともいえない魅力を感じたのである。それは、スーツ姿の小生意気な天使だったり、犬生?斜めにみているやさぐれ犬だったり、昭和ノスタルジーに浸りまくる誘拐犯夫婦だったりするのである。
本作では、主人公のこころちゃんをハズす同級生のいじめが妙にリアルで、教師の前でネコを被るところなんか、当社にいるゴマすり社員と瓜二つ。コロナ禍の在宅勤務が仇となり、そのまま引きこもりになってしまった社会人が日本全国に150万人近くいるらしく、引きこもりがなにも中学生の特権ではなくなってしまっている日本の現状なのである。そんな社会現象を上手にアニメの中に取り込んでみせている原監督なのである。
同じ中学校に通う(はずだった)7人の子供たち。それぞれの理由で学校に通えなくなってしまった子供たちがある日、不思議な光を放つ鏡を通して“かがみの孤城”に招かれるファンタジー。ベースになっているのは、『オオカミと7匹の子やぎ』や『赤ずきんちゃん』といったグリム童話なのだが、複雑化した現代社会にあって子供たちの苦悩も人それぞれ、現実世界では(そのままの姿で)出会うことができない、というルールが伏線になっている。
お城の中で“鍵”を探すというミッションを与えられるものの、子供たちは実に呑気にお城生活をエンジョイしている。時間さえ守れば来城帰宅も自由自在のフレックス制、ゲームをしたりお茶を飲んだり悩みを打ち明けあったり....私達が子供の頃は普段の学校生活の中で普通にできたことが、現代の子供たちにとっては、こんな亜空間を与えられなければままならない、夢のまた夢の日常と化してしまっているのである。○○○がオオカミの仮面を被っていたように、状況に応じたペルソナを被らなければ直ぐにハズされてしまうせちがらい小社会に生きているのである。
そんなリラックスできる夢のようなお城生活をまるで現実世界で実現したような“フリースクール”が現在脚光を浴びているとか、いないとか。学校と家庭のちょうと中間に位置する、オヤジ社会でいう“一杯飲屋”のような場所なのである。勉強は2の次で、ただ同じような境遇の子供たちが一緒にいるだけで自然となごめる場所だという。常日頃猛烈な競争にさらされている子供たちとって、すでに家庭も“ON”の場と化しており、彼ら彼女たちに必要なのは何よりも“OFF”を味わえる空間と時間らしいのである。
フリースクールの喜多島先生の正体がミステリーとなって展開していくストーリーは、途中でかなりネタバレ状態なのだが、ラストのカタルシスへのもっていき方はまずまずの出来。ゲームつながりのスバルとマサムネはともかく、ウレシノとフウカの年の差カップルはその後どうなったのだろう?不登校の説明以外にも、メンバー4人の後日談をエンドロールの中にしっかりいれるべきだったと思うのだがどうだろう?