「最後に俯瞰される世界に驚かされる中学生版『ブレックファスト・クラブ』」かがみの孤城 よねさんの映画レビュー(感想・評価)
最後に俯瞰される世界に驚かされる中学生版『ブレックファスト・クラブ』
同級生によるいじめが原因で学校に行けなくなった中学1年生のこころは5月のある日突然不思議な光を放ち始めた自室の鏡に吸い込まれて小さな孤島に建つ小さな城に辿り着く。そこにいたのは狼のお面を被った少女“オオカミさま”と6人の子供たち、アキ、スバル、リオン、フウカ、マサムネ、ウレシノ。オオカミさまは7人が選ばれた存在であり、城に隠された鍵を見つけることができた者のどんな願いでも叶えると告げる。城へは毎日来ることが出来るが午後5時には城を出なければいけない。期限は来年の3月末。7人は城に通ううちに学年が違うものの全員中学生であり、それぞれに深刻な問題を抱えていることを知り、そして彼らにとって城がかけがえのない場所になっていく。
まずいじめの描写が非常にリアルであることに驚かされます。穏やかな表情のキャラクターが突然辛辣なセリフを吐いたり不穏な行動に走ったりするのは強烈なインパクト。特にこころを追い込むことになる同級生の真田、担任の伊田先生の異様な存在感はホラー映画的とも言えます。7人が孤立することになる理由もまたしっかり描写されているので、自身の小学生時代のいじめ体験が想起され劇中で浮かび上がる無間地獄の凄惨さに身震いしました。7人は仲間たちが何を抱えているかを察するがお互いに決して深入りせず、それがゆえに7人の間にある微妙な違和感に気付かないことが物語のフックになっていて、ありきたりなファンタジーかと思いきや過去と未来を行き交うSF要素も効果的に取り込んだスリリングなジュブナイルになっています。
リオンだけがいじめに遭っていない、ハワイにいるリオン以外の6人が現実世界で会うことが出来ない、といった断片が導く展開やオオカミさまの正体などは途中で読めてしまいますが、いじめという辛辣なテーマを克明に描きながらも人間の醜さではなく逞しさに焦点を当てたドラマは途方なく優しく、最後の最後で俯瞰される世界の意外な構造にしっかり驚かされ、それゆえに大いに泣きました。
どのキャラクターも魅力的ですが、個人的には凄惨ないじめの連鎖の中で自分の立ち位置を弁えている同級生東条萌の存在が光って見えました。
つまるところ、これっていじめられっ子達が城に呼び出される中学生版『ブレックファスト・クラブ』。城はすなわち休日の図書室、オオカミさまはヴァーノン先生。これほどあからさまなリスペクトはディーン・イズラライト監督の『パワーレンジャー』以来、実に素晴らしい青春映画でした。