劇場公開日 2022年7月8日

「神は細部に宿る」モエカレはオレンジ色 R41さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5神は細部に宿る

2025年3月15日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

なるほど~ やはり漫画の実写化でしたか~
対象年齢に「青少年向け」と書いてあったのが少々おかしかった。
原作があるだけに「つまらない」ものではなかったものの、物語の根幹である消防についての基礎知識がなさ過ぎたのだけは残念さが残った。
さて、
映画では主人公モエの父の仕事と死の原因については触れられていないが、好きになった消防士の蛯原に対する気持ちが父と重なる部分は、純粋さを伺わせて非常にいいと感じた。
物語が転校したばかりの主人公の「いま」からスタートしており、主人公が父の形見のタバコを抱えて屋上でセンチメンタルになっているのは納得できる。
そしてその日が避難訓練で、現れた消防士が要救助者としてモエをグラウンドまで運ぶ。
つまりそれが出会いとなる。
縁とはおそらく存在する。
モエは買い物で再び蛯原と再会する。
こうして自分自身の気持ちが淡過ぎて消えることはないと実感するのだろう。
クラスメートが落としたハンカチを拾って届け、それがきっかけで友人となっていくあたりの描写も悪くなかった。
ただ惜しいのが三鷹の心情描写だろう。
モエは転向してからクラスメートに「笑わない女」のレッテルを貼られているが、そのことが話しかけにくさを演出していた。
かわいくて美人のモエを、三鷹はずっと気になっていたのだろう。
彼女が必死に蛯原を追いかけている姿に、失恋は確定的となってしまう。
三鷹の心情にわずかな尺しか与えられなかったのは少々残念感が残る。
また。友人になったサユミも消防士の姫野を好きになる。
このサユミが失恋してしまう原因がモエとなっている。
姫野がモエを好きになっていたのだ。
何のライバルだよと、突っ込みを入れたくなる。
この人間関係の枠が狭く、世界観の矮小さは何とかしてほしかった。
また、
蛯原と姫野の二人のライバル関係が、映画では口頭だけで済まされているが、ここに詳細がないことで物語全体に深さが感じられない。
逆に、姫野がモエに蛯原の元カノの死の話をするが、そもそも姫野はその彼女カスミを好きだったんじゃないのかと勘ぐってしまう。
つまり蛯原と姫野がライバルというのは、恋のライバルですか?と尋ねたくなる。
さて、
この物語は非常に純粋で、悪意のある人物は放火魔くらいだが、基本中の基本がテキトーなところがどうしても頂けない。
特にモエが救急救命士の資格を取るために勉強に勤しみ、かつ姫野が手助けする場面があるが、そもそも救急救命士は消防士、つまり救急車の中でしか使えない資格なので、彼女はまず消防士になる勉強から始めなければならない。
その他多数突っ込みどころがあったが、この物語の場所は神奈川県だった。
元フジテレビキャスター黒岩祐治さん(現神奈川県知事)こそ、この救急救命士誕生の父だ。
当時彼は連日テレビで「「現在のこの日本で、救急車の中で医療行為ができないなんて! 僕の中の常識がひっくりかえるほど驚きました」と訴えていた。
石のように頭の固い日本医師会と実際の現場の状況、もし医療機関到着前に何らかの医療行為をしていたら助かったと思われる命がどれだけあったか、また海外では認められている救急車の中で行う「プレホスピタル・ケア」について議論された末、「救急救命士」という制度が確立された。
救急救命士としての資格を取得するためには、消防学校や救急研修で行われる救急に関しての授業、実際の救急隊としての経験、新しく認められるようになった「医療行為」の授業、そして最終的に「国家試験」をパスする必要がある。
この熱い心を持った、たった一人の男によってプレホスピタルケアというものが問題提議され、世論を巻き込み、政治を動かして、そして最終的には「救急救命士法」が成立した。
あの頃はまだ、テレビというものが生きていた。
このような基本的な部分がしっかりあれば、物語はリアルさを増し、特に青少年向けでなくとも楽しめるだろう。
やはり神は細部にこそ宿るのだろう。

R41
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