「痛々しくても 悩み苦しんでも…三姉妹diary」三姉妹 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
痛々しくても 悩み苦しんでも…三姉妹diary
見てたら2本の是枝裕和監督作品が思い浮かんだ。
まず、『海街diary』。同じ姉妹の物語。が、あちらのような美人姉妹たちが織り成す様をずっと眺めていたいようなものではない。
それから、『歩いても 歩いても』。集った家族の内に抱える複雑な感情が炙り出されていく。
本作はさらに、辛辣と殺伐と…。
ソウルでそれぞれの生活を送る三姉妹。
長女ヒスク。花屋で働きながら、元夫の借金を返し続けている。娘からは邪険にされている。
次女ミヨン。裕福なマンション暮らしで、熱心なクリスチャン。子供たちにも厳しく、夫の浮気が発覚し…。
三女ミオク。劇作家だがスランプ中で酒浸りの自暴自棄。夫の連れ子との関係も拍車をかける。
それぞれの生活の中抱える悩み、問題、苦しみ…。
はっきり言って、いずれも共感出来なかった。
寧ろ、それで良かったかもしれない。狙いかもしれない。
そうする事で、それぞれが抱えるものが鮮烈に浮かび上がる。
生活は苦しく、娘から邪険にされるヒスクの姿は痛々しい。
食前の祈りをしない子供を叱ったり、何処か人を寄せ付けないミヨンは怖くもある。
四六時中飲んで食べて、時には嘔吐。乱れた生活の上、周囲に大声を上げて当たり散らすミオクはいらいらする。
時々見てるのがしんどくなったり、嫌になったほど。
その共感に至らない感情が、終盤には意味を成す。
何故この三姉妹は、悲しみや苦しみなど負の感情の中をのたうち回る…?
家族のある過去が関係し…。
電話ではちょくちょく連絡取り合ったりしているが、同じ市内で暮らしているのに、直接会う事は少ない。
会うと思い出してしまうからだろう。
父親の誕生日。それぞれの家族も含め、久々に一堂に会する事に。
穏やか祝福ムード…いや、端からピリピリしていた。
そしてある事をきっかけに、抱え込む胸の内、今尚引き摺る所以の過去のトラウマが吐き出される…。
韓国は今も家父長制と言われる。それを扱った作品も多い。
三姉妹が幼い頃は尚更。
父親は絶対君主。逆らう事、歯向かう事すら出来ない。例え暴力を振るわれても。
三姉妹の下に弟が一人いる。ヒスクと弟は腹違い。父親から受けた暴力で、身体中痣だらけのヒスクと弟が抱き合ってる痛ましい姿…。
ミヨンとミオクは助けを求める。が、父親を通報するなんて!…と叱責を受ける。
誰も助けてくれない。父親に従え、寧ろ悪いのはお前たち子供とでも言うかのように…。
三姉妹が生きていく中で選んだのは…、
“フリ”をする事。
そうやって逃げ、隠れ、偽って生きていく事を選んだ。
そうしていれば、安全。何事もなく生きていける筈。
大丈夫なフリ。
完璧なフリ。
酔ってないフリ。
しかしそれは、静かに暮らせるどころか、より一層自分で自分の首を締める結果に。
あの時からずっと、息が詰まるような、幸せなど訪れた事無いような、自由なども無い閉じ込められたような人生。
その元凶である父親。古めかしい封建的な家族体制、そんな社会全体…。
もうあの頃と同じじゃない。
社会も家族の姿も私たち個人も変わろうとしている。
自分の意を、堂々と発言する事だって出来る。
父親からの謝罪の言葉が聞きたい。
ヒスクがすぐ謝る弱々しい性格になったのも、ミヨンが家族に対し厳格な性格になったのも、ミヨンが“逃げ”に走る性格になったのも、幼少時のトラウマから。
今家族との関係が不和なのも。
さらにヒスクは癌。父親から暴力を受け、不幸な人生を送り、このまま悪ければ死ぬかもしれないなんて、酷すぎる。
私たちをこんなにした父。
謝って!
謝ろうとしない父。今尚根強く残る韓国の家父長制を反映する。
母ヒスクを嫌ってた娘から発せられた言葉は意外なもの。
ミヨンがぶちまけた本音は衝撃なもの。
他人同士以上に、家族間の修羅場を見せ付けられるのは堪える。
が、そうやってしか癒す事の出来ない傷もある。
支え合って、思い合ってだけじゃないのも家族の姿。
ぶつけ合う事でしか分かり合えないのもまた家族の姿。
韓国の映画賞を総ナメにしたという女優たちの名演は迫真。
次女ムン・ソリのさすがの存在感。
下品な食べ方もいらいらさせる三女チャン・ユンジュも巧み。
妹二人に対し長女キム・ソニョンは控え目だが、かえってそれが悲哀を感じさせる佇まい。
見事なアンサンブル!
それらを捌き、苦悩や悲しみをまじまじと見せ付け、淡々ながらも実はヘビー級で、各々の描写から修羅場のクライマックスへと至っていく。
イ・スンウォンの演出力と脚本が光る。
名匠イ・チャンドンが絶賛。確かにこのヘビーな人間ドラマの雰囲気、同監督に通じるものがある。
三姉妹の会話の中でよく上がるのが、子供の頃の記憶。
いつぞや海辺の食堂で食べたホヤ。その味。その場所。
今も覚えてるような、忘れたような…。
ラスト、三人で赴く。
過去と向き合ってきた三姉妹の、過去への帰還のように感じた。
辛く、苦しい事ばかりだった過去。
そうじゃない記憶もある。
今やっと、行ける。
これから先、どんな人生がやって来るか分からない。が、
ラストの三姉妹の佇まいには、解き放たれた自由と射し込む希望が見えた。
ヘビーなだけの作品ではなかった。
韓国の三姉妹から、今を生きていく人々へ贈るエール。