<Caution!内容に触れています。>
ー この作品で扱う、元官僚の老人が起こした交通事故は良く覚えている。当初は様々なデマとともに老人が元官僚の上級職で有った事と、只管に事故の原因は”車の故障”と主張していたからである。ニュースで観る松永拓也さんは、常に理路整然と自身に起こった悲劇を繰り返さないように、様々な現行制度を変えるようなメッセージを発信していて、立派な方だな、と思っていた。
だが、このドキュメンタリーを見ると、松永拓也さんが亡き奥さんと娘さんの写真や遺品を見て泣き崩れる姿を見てこちらまで涙が溢れてしまった。松永さんが報道陣の前では毅然と振舞っていた姿しか観ていなかったために、一層その深い悲しみが伝わって来たからである。そして、もし、私の家族が同じように交通事故で被害を受けた際に、私は松永さんのように高所、大所の視点でメッセージを発せられるだろうかとも思ったモノである。-
◆感想
・このドキュメンタリー作品を見ていると、松永拓也さんが自身の悲しすぎる出来事を、二度と起こすまいと街中に立ち高齢者の自主的免許返納を訴え、39万人を超える署名を集めた事実には、頭を垂れるしかない。
そして、彼の行動は免許更新制度を変えたのである。
・更に言えば、交通事故だけではない被害者側が、裁判のために仕事を休まざるを得ない現状から”特別休暇”を取得できる制度の導入を求めて厚生労働省に申し入れる姿も、自分と同じ被害者の事を考えての事であり、高所、大所の視点でメッセージを発信する姿には、心を打たれる。
・松永拓也さんが泣きながら亡き奥さんと娘さんの写真や遺品を整理するシーンは、涙が溢れて来る。カメラマン、インタビュアーも嗚咽している。
松永さんは、こんな悲しみを抱えつつ、報道陣の前では毅然とした態度で自身の考えを語っていたのである。凄い人であると素直に思う。
・怖いと思った点は、高年齢者の免許問題だけではなく、加害者の男性の家族に向けられた誹謗中傷の言葉の数々である。暗い気持ちになる。
だが、一方、事故現場に建立された碑に対し、多くの人が献花し手を合わせる姿には、救われた気がしたものである。
■今作でも、少し触れられているが、私は可なり昔から交通事故加害者(特に、スピード違反、飲酒、煽り運転)に対する刑の軽さには疑問を抱いていた。
人を殺しておいて、懲役年数一桁の判決が多いからである。この点は近年法改正が進んでいるが、【危険運転致傷罪】の更なる厳罰化を進めて貰いたいものである。
・ご存じのように、加害者の元官僚の老人は、最近、刑務所でひっそりと亡くなった。老人は最後まで”車の故障”を主張していたが、禁固5年の刑に対し控訴しなかったからである。
本人も、社会的な地位を築きながら、最後、刑務所で一生を終えるとは思わなかったであろう。
<このドキュメンタリーは、決して気楽な気持ちでは観れない重いモノであるが、免許を持ち車を日常運転する者であれば、観ておきたい作品であると思う。
そして、ハンドルを握ったら、自分の健康状態のチェック、早めの出発、歩行者や他の車に対しても気を配った運転をする、という当たり前のことを今更ながらに再認識させて頂いた作品である。
今作は”交通事故は、被害者だけではなく、加害者側の家族も不幸を齎す”ことを伝える貴重なる作品でもあると、私は思います。>