「伏線回収も見事な恋愛映画」今夜、世界からこの恋が消えても といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
伏線回収も見事な恋愛映画
主演の福本莉子さん目当てで公開初日に鑑賞してきました。予告編を観ていたので、ざっくりとしたあらすじを知っている状態での鑑賞です。
結論ですが、めちゃくちゃ面白かった。
「意外」と言ってしまうと失礼かもしれませんが、単なる記憶喪失系の恋愛映画ではなく、ストーリー構成や伏線回収がしっかりした映画になっており、恋愛要素抜きにしても十分楽しめる作品でしたね。
序盤からところどころに散りばめられていた違和感が終盤に綺麗に回収される。非常にしっかりと練り上げられた脚本と構成で、普段恋愛映画を観ない映画マニアにも刺さる作品かと思います。
・・・・・・・・・・・・
高校一年生のGWに交通事故に巻き込まれ、寝ると記憶を失ってしまう前向性健忘という障害を負ってしまった日野真織(福本莉子)。毎日の出来事を日記に残し、それを毎朝読むことで周りに障害がバレないように生活をしていた。事故から3年後、症状の改善が見られ、寝ても記憶を失わなくなった真織だったが、障害を負っていた3年間の記憶は抜け落ちたままだった。実はその3年間には、日記の中には記されていない神谷透(道枝駿佑)とのかけがえのない思い出が隠されていた。
・・・・・・・・・・・・
まず役者が素晴らしい。
なにわ男子の道枝くんは若手アイドルではありますが意外に演技経験は豊富で、2020年公開の『461個のおべんとう』という映画でも主演を務めていました。
福本莉子さんは最近売れっ子の女優さんですので、当然演技はお手の物です。ビジュアルの可愛さも相まって最高です。『君が落とした青空』でもヒロイン役を完璧に演じていました。女子高生のヒロイン役やらせたら一番の女優さんではないでしょうか。
そしてなにより、古川琴音さんの演技は文句のつけようがないほど最高でした。『十二人の死にたい子供たち』『街の上で』など、前々から彼女の演技を観る機会があったのですが、私が鑑賞した映画はどちらも登場が少ない脇役でしたので、ここまでしっかりと彼女の演技を観たのは初めてでした。こんなに演技力が高く、観客の感情を揺さぶる素晴らしい女優さんだったとは……感動しました。本作を鑑賞していて、泣きそうになった場面が2か所ほどありましたが、それはどちらも古川さん演じる泉のシーンでした。今後も活躍を期待したい女優さんです。
そして、ストーリー構成が素晴らしい。
序盤から、ところどころに違和感のあるシーンが散見されます。
真織が日常を過ごすために無くてはならない日記はノートPCの中に記録されていますが、「そのノートPCが故障したらどうするんだ」という違和感があります。そして真織が朝起きて、両親から記憶障害の経緯を説明されるシーンでも「毎朝こんな会話やってんのか」と思います。
正直最初はこの違和感を脚本や設定の粗だと思っていたのですが、実はこれは伏線だったのだと映画の後半に差し掛かるころには気が付きます。序盤で感じた小さな違和感が実は伏線で、後半で綺麗に回収されるので、観ていて本当に気持ちが良いですね。
寝ると記憶が消えてしまうという設定は、新垣結衣主演でドラマ化もされた西尾維新の『掟上今日子』シリーズや、前向性健忘が作品のキーとなるクリストファー・ノーラン監督の『メメント』を想起します。しかし、作風として一番近いのはおそらく吉野耕平監督・中村倫也主演の隠れた名作『水曜日が消えた』ではないでしょうか。
『水曜日が消えた』は幼少期の交通事故をきっかけに、曜日ごとに人格が入れ替わるようになってしまった主人公の”僕”を描いたミステリー的な作品です。日記によって各曜日の人格たちが意思疎通を行う描写なんかは『今夜、世界からこの恋が消えても』にかなり近いように感じました。
どうしても私のような映画オタクはアイドルが主演を務める恋愛映画は敬遠しがちですが、本作に関しては映画オタクも十分楽しめるしっかりとした構成の作品ですので、ぜひ多くの方に観てほしいですね。オススメです!!