劇場公開日 2023年4月7日

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「クジラがモチーフ」ザ・ホエール ミカエルさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0クジラがモチーフ

2023年4月18日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

難しい

この映画が『ザ・ホエール』というタイトルになっているのは、クジラがモチーフになっているからである。クジラに例えられているのは主人公の体重272キロの巨漢チャーリー、そのモデルになるクジラはアメリカの作家メルヴィルが著した長編小説『白鯨』に登場する白いマッコウクジラである。8歳の時捨てられたチャーリーの娘エリーは10代半ばで『白鯨』を読んでエッセイを書いた。このエッセイをチャーリーは何度も読み返すほど心の拠り所にしていて正直な気持ちを吐露した文章だといって激賞している。
『白鯨』というのは、次のような内容のものである。語り手のイシュメイルが捕鯨船に乗りたくて港町にやってきて、黒人の銛打ちクィークェグと出会い、一緒に捕鯨船ピークォド号へ乗り込む。船長であるエイバブは、かつて白鯨に片足を食いちぎられた過去を持ち、義足を装着していて、その復讐に執念を燃やしている。数年にわたる捜索の末、白鯨と対峙するが、船は沈没させられ、イシュメルだけが生還する。
一方、それに対するエリーのエッセイというのは、次のような内容のものである。クジラには感情がなく、船長エイバブがどれだけ復讐心を燃やそうとそれが伝わらない悲しさがある。エイバブはクジラを殺せば人生が良くなると思っているが、実際はなんの意味もない。クジラだけの描写の章はあまりにつまらなくて悲しくなった。作者(メルヴィル)は自身の悲しい物語を通して少しだけ読者を救おうとしている。『白鯨』を読んで、自分の人生について考えさせられ、良かったと思えるようになった。
大学のオンラインエッセイ教室の講師であるチャーリーは、娘には書く力があり、その文章に娘の持つ知性と誠実さを読み取った。
偶然にも今月からカルチャーセンターのエッセイ教室に通うことになった。正直に書くことがなにより大切ということを肝に銘じたい。

ミカエル