劇場公開日 2023年4月7日

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「これを映画的と言わずしてなんと言う」ザ・ホエール Jongoさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0これを映画的と言わずしてなんと言う

2023年4月17日
iPhoneアプリから投稿

恋人に先立たれた主人公は、その喪失感を埋めるために、暴食に走る。
夫に捨てられた元妻は、シングルマザーの重圧と世間の目を紛らわすために、酒に溺れる。
父に裏切られた娘は、二度と傷つかないために、人間をロクデナシと切り捨て世界を攻撃する。
兄を失った妹は、兄の恋人の面倒を見ることで、兄に何もしてやれなかった自分をなんとか保つ。
間違いを犯した若者は、神による救いを授けることで、自分の行動を正当化しようとする。

みなそれぞれ、単純化された行為によって自身が救われると思い込んでいる。鯨を殺せば人生がよくなると思い込んでいるエイハブ船長と同じように。
だが、そうはならない。なぜならそこには感情がないからだ。
この世で救いを得る方法はただ一つ。感情を持った相手に正直な気持ちを表明し、本心で対話すること。

それが成されたクライマックス。今までネガティブだった様々な事柄、その全てが一気にポジティブな方向へ動き出す。
説明セリフもなく、映像のみで表現されたこのラストシーンこそ、映画的と言わずなんと言うべきか。

こういう瞬間に出会うために映画を見続けていると再確認させられた。現状今年ベスト

Jongo