「大切な人が死んだ後も、その愛は永遠に消えないものなのだという作品のメッセージに感動しました。」ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
大切な人が死んだ後も、その愛は永遠に消えないものなのだという作品のメッセージに感動しました。
「ネコ画家」として人気だった猫をモチーフにしたイラストで人気を集めたイギリスのイラストレーター、ルイス・ウェイン(1860~1939年)。名前を知らなくとも、猫のイラストを見たことのある人は多いことでしょう。夏目漱石の「吾輩は猫である」に登場する絵はがきの作者とも言われいています。そんな彼の数奇な生涯をほぼ事実に沿って描く伝記映画です。
ロンドンの上流階級に生まれたルイス・ウェイン(ベネディクト・カンバーバッチ)は父を亡くし5人の妹たちを養うため、イラストレーターの仕事を始めます。
妹たちの家庭教師として雇ったエミリー(クレア・フォイ)に一目ぼれし、身分が違うという周囲の反対を押し切って結婚。その半年後、妻は末期がんを宣告されるのです。彼女はがんで3年後に早世してしまいます。闘病生活のなかで、妻と最後の時を過ごすウェインでしたが、庭に迷い込んできた子猫のピーターの存在が救いになったのでした。
そして闘病中の妻を元気づけるため描き始めた愛らしくコミカルな猫のイラストでルイスは売れっ子になります。
妻が亡くなると、喪失感を埋めるため大量のネコの絵を描き、猛然と仕事に打ち込みますが、悲しみは消えず心を病んでいくのでした。
初めルイス・ウェインの名を知らないままに映画館へ向かいましたが、猫の絵には見覚えがありました。
猫に秘められた物語性にいち早く気づき、その魅力を世に知らしめてくれたルイスに、猫好きとしては感謝するばかりです。猫盛りだくさんかと思いきや、映画自体は猫に頼りすぎない普遍的な内容で、大切な人が死んだ後も、その愛は永遠に消えないものなのだという作品のメッセージに感動しました。
ルイスにとって創作は逃避であり、悲しみの表出であり、社会とのつながりでもあったのです。人生と世界を受容するため、妻のいない時間を生きるため、芸術が必要だったのだと思います。
どんな問題に直面しても、自分が愛するもの、美しいと感じるものへの思いを貫き通す天才肌の奇人。世界はこんなに美しいのに、時にひどく残酷になるのはなぜか。ルイスは 『良い電気』と『悪い電気』があるせいだと考えたのです。ルイスは世の現象全てを「電気」で説明する理論を振り回し周囲も観客も戸惑わせます。但し、終盤である人物が彼にこう言うのです。「あなたが電気と呼ぶものを、私は愛と呼ぶ」。とても印象的な言葉でした。
そんなルイスの目に映っていた世界や、エネルギーやインスピレーションのような。“電気”を体感できる幻想的な映像も本作の魅力のひとつ。ハチワレ猫の自然な愛らしさには、思わず頬がゆるんだ。
いつもながらカンバーバッチの演技が見事です。ルイスのような奇人を演じさせれば、カンバーバッチの個性がぴったりとはまっています。若い頃から精神を病む晩年まで、主人公の繊細で複雑な内面を絶妙に表現していました。その心の世界は不思議な映像としても描かれます。彼が妻と見る風景はイラストのように色鮮やかなのです。その美しさが2人の永遠の愛を具現して、感動的でした。