「チョコレートは初恋の味」ウォンカとチョコレート工場のはじまり 猿田猿太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
チョコレートは初恋の味
「私のチョコレートは68万です」って、なんだかフリーザ様より強そう。それはさておき。
映画の特徴は、昔に読んだ挿絵一杯の児童小説のようなミュージカルで、どこを切り取っても楽しいカットで満載。お話の筋はかの名作「チョコレート工場の秘密」の前身ということですが、いろいろと細かい筋書きが違うような気がするけど(ウンパルンパとはちゃんと取引が成立していたはず)、そこは映画を楽しくするための小細工ということで捨て置くことに致しましょう。いろいろと伏線引きも判りやすく、仲間達の設定やウォンカが字を読めるようになってヌードル(仮称)の出生を解く手掛かりを掴めるようになったのが面白い。
そればかりでなく、手作りの板チョコに添えられていた母からのメッセージを、ヌードルから字を教わったお陰で、初めて読めるようになったことに気付いて感動。そのことにジンワリと気付かされる快感。これこそ映画鑑賞冥利につきるというものです。
そして板チョコを割って仲間と分ける。映画「ショコラ」で最後に登場するチョコは飲むタイプの「ホット・チョコレート」でしたが、勝利の後、観衆に分けていた(ウォンカの出汁入りの)チョコレートドリンクもそのチョコレート起源に繋がっているのか、というのは考えすぎでしょうか。でもやっぱり、チョコレートと言えば板チョコですよね。「チョコレート工場の秘密」でも代表的なのはチョコの噴水ではなく巨大な板チョコでした。確かに割って分け合ってこそチョコの醍醐味。
もう一つ、これも隠されたメッセージと思うのも考えすぎでしょうか。中盤で開店したウォンカの店に最初に招かれたのはお年寄りのお客様。この映画では子供たちよりも、もっぱら、チョコを食べているのは大人ばかり。本当にチョコが好きなのは、むしろ、チョコの味をよく知っている大人の方なのかも。無論、子供も大好きだろうけど、かつて食べた思い出を味わうチョコの味もまた格別。チョコを食べればあの日に帰り、若返って恋だってする。年配のカップルが幾つも誕生したのも、こうしたメッセージではないでしょうか。
正直言うと、悪役の人が言っていた「プレーンなチョコ」の方が、私は好きなんですけどね。チョコ本来の味を味わいたい。だけど、マシュマロやらミントやら、沢山色んな物が沢山詰まっている方が楽しいに決まっている。そこも児童小説のような楽しい文面を読んでいるかのようでした。
役者さんの知識はあまりないけど、新作「DUNE」の主演だったティモシー・シャラメさんの美々しい活躍はとても見事でしたが、個人的に「Mr.ビーン」のローワン・アトキンソン氏の登場がとても楽しかった。こうしたミュージカル映画は音声そのまま聴くべきだったかもしれないけど、私が観た吹き替え版では花村想太さんが良い歌声でした。加えてヌードル役のセントチヒロ・チッチさんの歌声も良かったなあ。吹き替えも判りやすくてお薦めです。