「続いてくれ」ふたつの部屋、ふたりの暮らし デブリさんの映画レビュー(感想・評価)
続いてくれ
二人が暮らすアパートメントや、そこで作られる料理、飲まれるワイン、流れる音楽やダンス、散歩に出る湖畔の遊歩道、そういうものたちが素敵で、二人が何年にもわたっていい時間を過ごしてきたのが分かる。
それだけに、片方に脳卒中の発作が一度起きただけのことで、人生のパートナーなのに“赤の他人”扱いになってしまうのが本当に切ない。
「何か問題ある!? 年寄りのレズビアンで!」と往来で不動産屋相手に叫んでいたニナが、マドレーヌが倒れた後、マドの家族には隠し通そうとする(途中で思いあまって過激なぶちまけ方をするけど)のも愛ゆえだと思った。
マドを演じたマルティーヌ・シュヴァリエ、倒れて以降のシーンはほぼセリフがないのに、まなざし一つでたくさんのことを表していて、すごい女優さん。ビンゴの辺りから泣けてしょうがなかった。
マドの娘は、映画の中でヒールのような役回りではあるけど、母親が倒れる以前から母親を大事にしていたし、心の距離の近い母娘だということもうかがえたし、自分の両親の間に愛があったと信じたい気持ちも自然で、必死にドアを叩く姿はこれもまた切なかった。
最後、あのまま踊り終えて例えば二人で窓から身を投げたら、映画的にはキレイかもしれないけど、そうじゃなかったらいいなあ。誰にも邪魔されずに「Sul mio carro」で踊った後、二人にはドアを開けてほしい。そして、“ふたりの暮らし”を続けてほしい。部屋はふたつのままでも、誰はばかることなく行き来する新しい暮らしをしてほしい。
この映画が作られ公開されてすごくよかったけど、今度は恐怖や不安や悲しさと無縁の“年寄りのレズビアン”映画ができたらいいな。そういう意味でも、(あとに)続いて、という気持ち。