「1987年、英国ロンドン。 高名な米国人作家のフィリップ(ドゥニ・...」レア・セドゥのいつわり りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
1987年、英国ロンドン。 高名な米国人作家のフィリップ(ドゥニ・...
1987年、英国ロンドン。
高名な米国人作家のフィリップ(ドゥニ・ポダリデス)は執筆のため妻とともに移住してきた。
仕事用のアパートを借りて執筆活動に勤しんでいるが、60歳手前だがまだまだ男盛りの彼は、これまでと同じく、妻とは別の女性と愛の時間をそのアパートの一室で繰り広げていた。
今回の相手は4歳の娘がいる人妻(名前は明らかにされない。レア・セドゥ扮演)。
「年齢は33歳。夫との結婚生活は悲惨そのもの。彼(フィリップ)と出会ったのは1年半前のこと」と語る彼女の姿から映画は始まる・・・
といった物語で、『さよならコロンバス』『ポート・ノイの不満』などの著作を世に出したフィリップ・ロスの私的小説「DECEPTION」の映画化。
フィリップと人妻の濃厚な描写(いわゆる官能シーンだけでなく、会話そのものも濃厚なのだが)が続くので、脇道にそれやすく(またそれが魅力の)アルノー・デプレシャン監督にしては珍しい類の映画だなぁ、などと思いながら鑑賞していると、「12」のサブタイトルで区切られて、フィリップの過去の女性遍歴とその後の現在が綴られていきます。
その相手のひとり、これも高名(と思われる)な女流作家で現在は米国で癌闘病中の女性役を、デプレシャンのミューズ、エマニュエル・ドゥヴォスが演じています。
繰り返される人妻との逢瀬は、ともすれば一本調子になりそうなところを、背景を舞台装置のように変えたり、突然の雪景色の中で抱き合わせたりと、デプレシャン監督の異化作用をもたらす演出が目を引きます。
そのほか、チェコから米国に亡命した映画監督の妻に手を出し(と映画監督は思っている)、監督とトラブルになるあたりは、脇道へそれるデプレシャンらしさを出しています。
ただし、チェコのユダヤ人をルーツに持つフィリップは事あるごとに「ユダヤ人問題」を口に出すのですが、そこいらあたりはちょっと辟易だけれど、フィリップが父親をやり込めるエピソードなどは巧みなユーモアが醸し出されています。
なお、英国在住の米国人の不倫話なんだけれど、演じているのが全員フランス人で、フランス語でしゃべっているのには少々違和感がありました。
どうみてもフランスにしか見えないものね。
最後に、フィリップ・ロスの映画化作品では、『ダイイング・アニマル』をイザベル・コイシェ監督が2008年に映画化した『エレジー』が記憶に新しいところだが、本作にも登場する女子大生との不倫話も、『ダイイング・アニマル』に活かされたのかしらん、と思うとなんだか興味深い(『エレジー』では、初老の大学教授をベン・キングズレーが、若い教え子をペネロペ・クルスが演じていました)。