「憧れの時代の空気を胸いっぱいに吸いこんだ」ローレル・キャニオン 夢のウェストコースト・ロック SGさんの映画レビュー(感想・評価)
憧れの時代の空気を胸いっぱいに吸いこんだ
個人的には大好きなビートルズの中期ともシンクロしたこの時代のウエストコートの音楽シーンに関しては、ザ・バーズの「ミスター・タンブリンマン」、ママス&パパスの「カリフォルニア・ドリーミング」、イーグルス(もしくはリンダ・ロンシュタット)の「デスペラード」など、主だったアーティストのヒット曲しかプレイリストに収めておらず、リアルタイムで洋楽にハマったのも80年代だから、さほど思い入れも造詣も深くない。
それでも映画も含めて特にアメリカン・カルチャーが大きく変革していく出来事が詰まったこの時代そのものがとにかく魅力的で興味は尽きない。
時代を彩った名曲に包まれながら、彼らのサクセス・ストーリーと当時の"楽園"での生活ぶりが、彼ら自身が語る多くのエピソードで紐解かれていく。
しかしやがて音楽が紡いだ友情やセックス、ドラッグ、西海岸の自由で美しく平和な日々は、まさにこの地域で起きた69年のマンソン・ファミリーによるシャロン・テート惨殺事件やベトナム戦争など、時代と共に広がる社会的不安の影響から暗い影を落とし儚くも終焉を迎えていく。
これらのエピソードは大部分が声だけで編集されており、年老いたかつてのスターたちの姿は出てこない。だからこそ彼らと親交の深かった写真家ヘンリー・ディルツによる魅力溢れるフォトグラフの数々とも相まって、当時そのままの空気感が作品全体に流れている。
まるで憧れの時代のL.A.にタイムスリップしたかのような感覚を味わわせてくれる珠玉の2時間。
大好きな時代の空気を胸いっぱいに吸い込んで、今は言わずもがなウエストコート・ロック沼にどっぷり浸かっている。