「寡黙な二人の代わりに農村の日々を捉え綴るカメラ。貴英が“生きている間に自分の家の自分の布団で寝られるとは思わなかった”と言った時の愛しさ。愛する全てが土に還った時、有鉄も土を離れたのだろう。」小さき麦の花 もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
寡黙な二人の代わりに農村の日々を捉え綴るカメラ。貴英が“生きている間に自分の家の自分の布団で寝られるとは思わなかった”と言った時の愛しさ。愛する全てが土に還った時、有鉄も土を離れたのだろう。
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①映画を観ている間よりも、観終わった後に染々と涙が湧いてくる映画だ。
こんな映画はそうそう無いと思う。
②映画の大半は淡々と続く農作業や言葉少ない夫婦の屋内の描写に終始するうえ大きな出来事も起こらないので、軽快なコメディやアクション活劇を見慣れた目にはかったるく映るかも知れない。でも、ミレーの「落穂拾い」を彷彿とさせるような一幅の絵画のような映画である。
③日本人よりも家族・血縁を大事にする中国人。それでも家族の厄介者同士で無理矢理夫婦にされた二人。その二人がぎこちない中で心が通じ会いゆっくりと夫婦となっていく様が愛おしい。
こんな夫婦なら結婚しても良かったな、とちょっと思った。
④恩義には厚い中国人。RH-の血液型しか輸血出来ない為、有鉄から輸血してもらっている農村の有力者の息子が、金持ち面をしながらも貴英に服を買ってやったりとか気にかけている様は微笑ましい。BMVに乗っているのだが、最初に貴英を乗せた時にお漏らしされたので、次回から後部座席にビニールシートを拖いていたのには笑た。
⑤題名は原題『隠入尖煙』の直訳「土埃の中で」でも良かったかもしれない。でも、この夫婦のささやかだけれども愛おしい絆を良く表した『小さな麦の花』は最近久々に良い邦題だと思う。
⑥病気になった自分に大事な卵を食べさせてくれた夫にも卵を食べてもらいたいと、不自由な足を引き摺って出掛けた挙げ句に川に落ちて死んでしまった貴英。
でも、幸薄かった前半生の後、有鉄と夫婦になれた間の貴英は確かに幸せだったと思う。
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