遺灰は語るのレビュー・感想・評価
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ギリシャ壺
1934年にノーベル文学賞を授賞し1936年に没した作家ルイジ・ピランデッロと、彼の遺灰をローマからシチリアへ運ぶ男の話。
ムッソリーニの意向によりローマに10年留められた遺灰を故人の遺言に従いシチリアへと運ぶストーリー。
ピランデッロなるお方も作品も史実も知らずに観賞。
当時の映像を交えて世情を見せつつ、子供が出来ただのあっという間に白髪になっただのと文学的に見せていき、没後10年して遺灰を運ぶ旅になって行くけれど、今どこにいてどのぐらいの時間が経っているかが見えず…確かにストーリーとは直接関係ないけれど、そのぐらいはみせて欲しいところ。
不吉と言い出す飛行機の乗客だったり、列車に乗ってからの様子だったり、葬儀の様子だったり、当時の人達の考えや風潮がみえるし、どこかすっとぼけていてユニークではあったけれど、面白かったかと言われれば特に感情が動かされることもなく、終始ふ〜ん…という感じ。
そしてエピローグ的に、ピランデッロ著の短編「釘」が流れるけれど、こちらは父親と共にシチリアからNYへ移民として渡った少年が6年後に起こした事件を巡る話。
「釘」が絡んだ定めと少年が述べる事件から始まり、6年前と事件前の様子をみせて行くけれど、結局なにが定めで何が言いたいのかチンプンカンプン。
事件直前の少年はちょっとセンチメンタルな感じこそあったけれど、それ以外感情の機微が伝わって来ず、だから戻ってからの数十年も全然沁みず、これ又ふ〜んという感じ。
自分には難し過ぎた。
シニョリータ・ピッキ・ピッキ
死ぬこと考えてなかった。でも人間は必ず死ぬ メメント・モリ
前半はモノクロでピランデッロがノーベル賞を受賞する場面は映画ニュースのよう。死の床にいるピランデッロの独白のシーンはシュール、死ぬときはこんななのかなあと思った。戦後の映像はネオレアリズモの映画を彷彿とさせた。イタリアの映画なんだよ!って監督が伝えてくれるみたい。
そしてピランデッロの遺灰が主人公になるとロードムービーになる。迷信深いイタリア人が飛行機からみんな降りてしまったり(おまじないの手振りが面白かった)、遺灰をしまってある大きな木箱がどこやらに行ってしまったり。そしてやっとシチリアに着いたと思ったら遺灰を入れる棺桶が子ども用の小さいのしかなくて、バルコニーから葬列を見下ろす老若男女に笑いが伝染する。一人の女の子が「棺桶小さいね、こびとさんのお葬式?」と言ったから。笑ってはならない状況なのに、ママ、パパ、おじいさんその他その他へ伝わってバルコニーのみんながおもわず静かに笑ってしまう。お葬式ってそういうことよくあるなあと、普遍的な笑いと可笑しさに暖かみを感じた。子ども用の棺桶しか無かったのは、伝染病で人が沢山死んだから。イタリアは昔からパンデミックの記憶を文学に映画に残す。日本はそうでもないなあ。
シチリアの濃い青の海。そう、美しいすべすべしたモノクロからいきなりカラーになる。そしてピランデッロが死の20日前に書いたという戯曲「釘」が映画として私たちの前に繰り広げられる。シチリアの男の子が父親と移民としてニューヨークに渡りレストランを開く。音楽に合わせて踊るかわいい男の子。
その男の子はピランデッロだろうか?大人たちと一緒に食事をしないで外に出て釘をたまたま見つけたのも喧嘩している二人の女の子を見たのも、全部定めで縁で運命なんだろうか。約束通りに、必ず墓参りに行く、どんなに年とっても。
いつ死んでもおかしくないし何歳まで生きるかもわからないけれど、死を身近に感じた。少し怖い。でも笑ってくれる人がいるかな、忘れないでいてくれる人もいるかな、とちょっと安心する気持ちも生まれた。91歳の監督が作った映画なんだから、身を委ねて見ればいいんだ。音楽もとてもよかった。
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