「映像作家としてのタビアーニ監督の、卓越した映像感覚と語り口を十二分に堪能できる一作」遺灰は語る yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
映像作家としてのタビアーニ監督の、卓越した映像感覚と語り口を十二分に堪能できる一作
イタリアを代表する映画監督であるタビアーニ兄弟の、弟パオロ・タビアーノが兄ビットリオの死後(2018年死去)、単独で監督した長編作品です。
本作の「主人公」は、実在するイタリアの作家、ルイジ・ピランデッロですが、物語は彼が亡くなるところから始まります。その彼の独白がしばらく物語を引っ張っていくため、「遺灰は語る」という題名は、抽象表現や比喩などではなく、物語そのものをずばりと言い表していることが分かります。
冒頭で見せる、ちょっと『2001年宇宙の旅』(1968)に通じるようなシンプルかつ抽象的な現代アートのような構図と、時間感覚を飛び越えるような不思議な演出は、一瞬で忘れがたい印象を残します。
そこからピランデッロの遺灰が辿る数奇な運命を描いた本編は、一転してユーモアと皮肉を加味した極めて写実的な描写となっています。
上映時間約90分と、近年の映画作品の中では比較的コンパクトですが、モノクロームの美しさを最大限に引き出しつつ、変幻自在の語り口で様々な人間ドラマを見せるという密度の濃さは、短さや物足りなさを全く感じさせません。
イタリア映画の巨匠作品と身構える必要は全くない作品なので、本作をタビアーニ作品の入り口とすることも全く問題ないと思います!
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