「世界は私を理解しない。」遺灰は語る 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)
世界は私を理解しない。
2022年。パオロ・タビアーニ監督。イタリア出身のノーベル賞作家は亡くなる間際、葬儀は故郷シチリアで質素に、遺灰は海へ、と言い残したが、政府の意向で遺灰はローマにとどめ置かれてしまう。戦後になって遺灰は故郷に戻されることになるが、、、という話。
ところが移動過程でのエピソードが示すのは、庶民レベルでは「ノーベル賞はすごい」という表面的な権威が意識されるだけで、作家本人への敬意などないし、まして運ばれる遺灰はただ不吉なものでしかないということ。遺志は国家にだけでなく社会全体によって曲げられるのだ。遺灰は故郷に戻ってもモニュメントのなかに入れられてしまう。たまたま余った一部の遺灰だけが海にまかれるのだが、その時、画面はモノクロからカラーへと変わり、大海原のうねりが生命の根源を感じさせる。ほんの一部だけにせよ解放感がある。
その後、作家の遺作が映像化される。その物語では衝動的に少女を殺害してしまった少年の姿が描かれている。荒々しい世界の姿、自らを襲う衝動、周囲に理解を求められない孤立、が息苦しく描かれている。そうして映画を観ていた者は「世界は私を理解しない」ことについての映画を見たんだな、ということを深く了解する。
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