「フェミニズム各論編の決定版 中絶の過酷な現実」コール・ジェーン 女性たちの秘密の電話 パングロスさんの映画レビュー(感想・評価)
フェミニズム各論編の決定版 中絶の過酷な現実
昨年来、『バービー』『哀れなるものたち』etc.etc.‥とフェミニズムを基調とする映画が花盛りだが、本作は、人工妊娠中絶をめぐる過酷過ぎる現実と戦う女性たちのチーム「ジェーン」を中心に据えた物語。
扱う問題は深刻だが、映画はコメディタッチのポップな明るさもある作品として提示されている。
日本では、1948年、あまりにも多くの問題を抱えていた優生保護法によって仮にも中絶は一部合法化され、1996年の母体保護法への改正によって問題点の多くは解消された。
しかし、アメリカでは、1973年の連邦最高裁によるロー対ウェイド判決が中絶を憲法上の女性の権利として認めるまでは違法とされていた。
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【以下ネタバレ注意⚠️】
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その中絶が違法とされていた60年代後半から70年代はじめまで、シカゴで女性たちに中絶を提供していた組織=ある種の秘密結社のコードネームが「ジェーン」。
映画は、その実在した「ジェーン」を題材に、組織のリーダー、ヴァージニアにシガニー・ウィーバー(1949- )、参謀役にナイジェリア出身のウンミ・モサク(1986- )らを据え、エリザベス・バンクス(1974- )演ずる弁護士の妻ジョイを主役としてドラマを仕立てている。
「ジェーン」が頼みとするのが暴利を貪る無免許医師のディーンであったこと、
その弱みを握ったジョイがディーンを半ば脅す形で中絶法の実技を伝授されること、
ディーンが追放されると代わりにジョイが中絶施術者になること、
あたりにモヤる人も多いだろうが、そもそも論としての「必要」とする人たちさえも中絶の道が違法として閉ざされていたことと同じく、何らかの必然性があったのかも知れないが、劇中では説明されない。
また、エンドクレジットで、本作と史実との関係や、2022年以降の深刻な「バックラッシュ」について何らかの表示があるのかと期待したが何もなかった。
作品をポップに仕上げるために、ドキュメンタリータッチを排したのかも知れないが、本作で扱うテーマに疎い小生のような視聴者向けには、もっと丁寧な配慮があっても良かったのではないか。
本作は、1973年の連邦最高裁判決を勝ち取り、「ジェーン」が解散するところで終わるが、2022年に保守派判事が多数を占めるようになった連邦最高裁が自ら1973年の判決を覆すという異例の事態が起こった。
これにより各州独自の州法により中絶禁止を定めることが可能となり、2023年時点で、テキサス、オクラホマ、アラバマ、アイダホ、ケンタッキー等14州で中絶を全面的に禁止する法律が成立したという。
『夜明けのすべて』が扱ったPMSにしてもそうだったが、男性がほとんど知らない女性特有の深刻な問題というのは厳然としてある。
その際たるものの一つが、本作の扱う妊娠中絶だろう。
小津安二郎も1957年の『東京暮色』で、場末の産院でのヤミ中絶を描いていた。
小津が描く主人公は何とも救いがない結末を迎えてしまうが、本作は、救いがない現実のなかで、小津が扱えなかった、如何に女性たちが連帯してその現実と戦ったかが描かれている。
当事者たる女性はもとより、中絶や妊娠には必ず原因として関わったはずの男性も観るべき映画だと思う。
※Filmsrksレビューを一部省略して投稿