「主人公が一番ヤバい系」N号棟 むしばさんの映画レビュー(感想・評価)
主人公が一番ヤバい系
睡眠障害のある女子大生の主人公が、岐阜の幽霊団地と呼ばれる廃墟に元カレ&その彼女と取材旅行に行き、奇妙な団地の住人たちに会い、怪異に巻き込まれていく話。
主人公が自己中クズで、彼女がいる元カレと平気で浮気もするし、自殺者が出てもカメラを回そうとするし、拘束された縄で食事持ってきた人の首を絞め、泣いて許しを請う人に向かってアイスピックを何度も突き刺す。何なんだ…。
元カレの今カノが聖人なので、通常ならこちらが主人公になるところを、クズを主人公にしたせいで、胡散臭い団地の住人たちに対して逃げたり迎合もせず、他者を傷つけることを厭わないため次に何をするかわからない謎のハラハラ感。
終盤、団地のリーダーの女性が「死は怖くない、あなたも死になさい」とナイフを渡そうとするが、この主人公にナイフを渡したらどんなことになるか…、映画を見た全員が察したに違いない…。
ホラー映画として考えると、クズを主人公にすると主人公に何があってもほら見たことかと穏やかに見ていられるし(良いのか悪いのかはわからない)、逃げるだけではなく反撃するし、積極的に真相を探ろうとするし、心がないので死人が出てもカメラも回そうとする。
受け身ではないのでストーリー進行に便利で、何をするかわからない攻撃性があるのでどう転ぶかわからず展開にハラハラする。(主人公が危険すぎて)
大学の教授や団地の住人たちの死生観がイマイチ…終盤の団地リーダーのシーンも微妙。
団地の住人たちが死んでない理由になっていないので、そこはもう少し哲学的に掘り下げて欲しかったなと。
ただラストの病院シーンは思想と行動と結果が繋がって理屈的にはすっきりして嫌いではない。予定調和ではあるし、あの暴れん坊主人公が小さく収まった感があって残念ではあるけど。(組織壊滅までしてほしかったけど、理屈的に繋がるほうが好みではある)
白(ベージュ)赤黒の画面内に、主人公だけ青い異物感は好き。団地リーダーの服のキモさ(ボタンを目にして腹から異形が覗いているような)が上手い。
主人公の堀が深くて、(ライティングからか)顔が誰よりも一番怖いのも好き。
全体的に人に勧めるほどではないけど、個人的に好きな部分はある。