劇場公開日 2022年4月22日

「先へ先へ…」カモン カモン TRINITY:The Righthanded Devilさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5先へ先へ…

2025年5月13日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

難しい

 ジェシーの母ヴィヴは一年前に認知症の末他界した自身の母親を看取ったばかりなのに、今度は高額で招聘されたプレッシャーで精神を病んでしまった音楽家の夫の面倒までみることに。ジェシーの世話を母の介護を巡って意見が衝突して以来疎遠だった兄ジョニーに任せようとする。

 9歳のジェシーは利発だがセンシティブな男の子。両親のいない淋しさを大音量のクラシックで紛らわせようとしたり、旺盛な好奇心で伯父のジョニーを質問攻めにする。

 ラジオジャーナリストのジョニーは独身で子育て経験はないが、普段から未成年を相手に彼らの意見に耳を傾けてきた仕事柄、気軽にジェシーの世話を引き受けたものの、彼の個性や子供ならではの言動に振り舞わされて次第に辟易してゆく。

 ジョニーや彼の仕事仲間は子供たちへのインタビューの際に「いやな質問ならノーと言って」と伝えるが、子供に対して普段からノーを突き付け抑圧していることに、多くの大人が無自覚。あるいはそれが当たり前だと考えている。
 仕事を通じて子供の理解者を気取っていたジョニーは、ジェシーとの共同生活を通じて子供との接し方だけでなく、家族のあり方をあらためて学ぶことになる。

「子供は未来からの使者」。かつてそう言った人がいた。
 子供たちの考えを押さえつけるだけでなく、彼らの意見を遮らず素直に受け止めることが正しい未来に繋がる気がする。

 グラフィックアーティスト出身のマイク・ミルズ監督は身近な問題をテーマに幾つもの傑作を発表し、注目を浴びる俊英。
 本作でも社会における子供の存在意義を問い掛けているように思える。

『オズの魔法使』や様々な著作物の引用、なぜ全編モノクロにしたかなど、あらゆることに寓意が込められている気がするが、個人的にいちばん気になったのが、兄妹の母の寝室に掲げられていたデューラーの『野うさぎ』。
 あらためて調べると多面的な解説がなされている名画の使用に、いったいどんなメッセージが?

 自然体の演技でジェシーをヴィヴィッドに演じたウッディ・ノーマンはクソガキ度-1.0/Cレベルにチャーミング。くりくり巻き毛が可愛いが、これからどんな役者に育っていくかも楽しみ。
 ジョニー役のホアキン・フェニックスも、ヴィヴ役のギャビー・ホフマンも、子役出身。

 BS松竹東急にて初視聴。

 こんないい映画(しかも近作)をチョイスできる局があとひと月ちょっとでなくなるなんて残念すぎる。

TRINITY:The Righthanded Devil