「【声を聞く映画】」カモン カモン てっぺいさんの映画レビュー(感想・評価)
【声を聞く映画】
突如甥っ子の世話を任された叔父は、その声や話に耳を傾け心を通わす。劇中で紹介される子ども達の未来へのリアルな声に、自然と思いが巡る。ホアキンと子役の名演にジワリ多幸感が広がる一本。
◆トリビア
〇ミルズ監督は「人生はビギナーズ」で自分の父親、「20センチュリー・ウーマン」で自分の母親を描いた。本作は、自身の子育て中に発想を得た。
〇ホアキン扮するジョニーの衣装の大部分は監督の私物。
〇監督は、是枝裕和監督の作品「ワンダフルライフ」が好き。
〇本作はオバマ元米大統領が選ぶベストムービーに選ばれた。
○全編モノクロの意図は、“ドキュメンタリー性を盛り込んだ寓話”を表現するため。
○本作には、ラジオジャーナリストのジョニーによるインタビューというドキュメンタリータッチのシーンを通じて、実際に取材した9〜15歳の子供たちの生の声が収録されている。
◆関連作品
○「20センチュリー・ウーマン」('16)
母子愛を描くマイク・ミルズの自伝的作品。本作同様A24製作。プライムビデオ配信中。
○「ジョーカー」('19)
ホアキン・フェニックス主演、アカデミー主演男優賞受賞作品。個人的にはR100指定作品。プライムビデオ配信中。
〇「都会のアリス」(’88)
監督がインスピレーションを受けたという作品。モノクロ映画で、主人公も本作と同じ9歳。U-NEXT配信中。
〇「アマンダと僕」(’18)
姉を亡くした青年と、その姪の絆を描くフランス映画。U-NEXT配信中。
◆概要
【監督・脚本】
「20センチュリー・ウーマン」マイク・ミルズ
【出演】
「ジョーカー」ホアキン・フェニックス(同作でアカデミー主演男優賞受賞)
「フィールド・オブ・ドリームス」ギャビー・ホフマン
ウッディ・ノーマン(本作で英国アカデミー助演男優賞ノミネート)
【原題】「C'mon C'mon」
【公開】2022年4月22日
【上映時間】108分
◆ストーリー
ニューヨークでひとり暮らしをしていたラジオジャーナリストのジョニーは、妹から頼まれて9歳の甥ジェシーの面倒を数日間みることになり、ロサンゼルスの妹の家で甥っ子との共同生活が始まる。好奇心旺盛なジェシーは、疑問に思うことを次々とストレートに投げかけてきてジョニーを困らせるが、その一方でジョニーの仕事や録音機材にも興味を示してくる。それをきっかけに次第に距離を縮めていく2人。仕事のためニューヨークに戻ることになったジョニーは、ジェシーを連れて行くことを決めるが……。
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◆以下ネタバレ
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◆親子愛
早朝爆音オペラに始まり、突如消えては現れ、バスに飛び乗り、大暴走のジェシー。“ゾッとする”ほど、振り回されっぱなしのジョニーも、次第に心が通っていく。二人が初めて手を繋ぐ画の広めなシーンや、空港行きをキャンセルしたレストランでのピザ乾杯も、心が通い合う二人の表現として、さりげなさが絶妙。ラスト、ジェシーが自声を録音した“先へ進むしかない”というセリフは、本作のタイトルでもあり、ジョニーとの別れを惜しむ彼の本音。その声を聞きながら、それに応えるようにジョニーが言った「必ず思い出させてあげる」というセリフは、草むらで二人思い切り叫び合うほど、深まった二人の絆の現れそのものだった。
◆録音機
ジョニーが渡して以来、ずっとジェシーが離さなかった録音機。思えばジェシーはそれを通じて周りの環境に初めて興味を持つようになり、ジョニーの声にも耳を傾けるようになった。二人が心を通わせるキッカケになった録音機はまた前述の通り、実際に収録された子供たちのインタビューのツールとしても使用されており、もはや本作を通してのアイコンだった。それを通じてジョニーが収録した子供たちの声は、一つ一つエンドロールまでじっくり紹介され、見ているこちらも自然と思いが巡らされるようで、はたまたジョニーの目線での“ゾッとする”ジェシーを見ているようでもあった。“子どもの声を聞く”、そしてそこから真理を見る、本作が伝えたいそんなメッセージが詰め込まれていたと思う。
◆ホアキン、ウッディ
「ジョーカー」の怪演から、どんなホアキンの振り幅が見れるのかにも注目だった本作。少しお腹もぽっちゃりとして、体型からすでに役作りが見える。ただ、本作では子役のウッディ・ノーマンの演技の自然さがそれをのんでいた気も。ジョニーに人間の“回復ゾーン”を語る大人びた語り口も良かったし、あの草むらでジョニーの言葉を遮りながら感情を爆発させるのも絶妙で、そこらの子役にはない自然な演技力に光るものがあった。今後注目したい俳優です。