「文学の余白で揺れる心」マイ・ニューヨーク・ダイアリー 月乃さんの映画レビュー(感想・評価)
文学の余白で揺れる心
キラキラした都会の空気や、夢見るような若さと野心。
この作品には、そのきらめきがたっぷり詰まっていて、思わず『プラダを着た悪魔』を思い出した。
ニューヨークの街並みや、出版の世界の一端が垣間見える映像はどこまでもおしゃれで、ただ流しているだけでも心地よく、まさにBGM代わりに部屋で流していたくなるような作品だった。
けれど、ジョアンナの行動には正直なところヒヤリとする場面も多かった。
中でも印象的だったのは、サリンジャー宛てのファンレターに、勝手に返信をしてしまうところ。
その行動は善意のようにも見えたけれど、相手の感情や人生に入り込むことの危うさを無視していたように思う。
しかも一度注意されても、なお繰り返してしまう。
誰かの言葉が、人の心を動かすだけでなく、時に過剰に揺さぶることだってある。
それを考えた時、劇中で「ただのクソ文」だと揶揄された定型文の持つ意味が、逆にとても重く感じられた。
それは、冷たさのための形式じゃない。過去の事件や、作家の安全と尊厳を守るために、本気で考え抜かれた“静かな防波堤”だったんだと思う。
ドンという恋人の存在には、少しイライラさせられた。
彼の言動は終始自己中心的で、ジョアンナの気持ちや立場をまるで顧みようとしない。
誕生日に自作の小説を渡し、それがただの自己満足に終わっていたり、勝手に物事を決めてしまったり。
しまいには、本人が嫌がっている呼び方さえやめようとしない――その感性の鈍さに、何度もため息が出た。
それでもこの映画は、最後まで「夢」と「現実」の間に立ち続けるジョアンナの揺れを丁寧に描いていた。
出版エージェントとしてのキャリアを手にしながらも、彼女が選ぶのは作家として生きる道。
あのエンディングは、希望というより“決意”に近くて、キラキラしているのにどこか静かで、好きだった。