「23歳の女性が「ライ麦畑でつかまえて」的経験をする話し。」マイ・ニューヨーク・ダイアリー 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
23歳の女性が「ライ麦畑でつかまえて」的経験をする話し。
好感を持ちました。面白かったです。
手っ取り早く言うならば【自分探し】でしょうか?
主人公がインテリ女性の嫌らしさや自己顕示欲・自己主張が少なめ。
作家志望なのに良くいえば控えめなのも珍しくて
ジョアンナを好きになりました。
ジョアンナは23歳。
西海岸での恋人と別れてニューヨークで暮らしはじめる。
意外とすぐに老舗の出版エージェントに就職が決まる。
ボスは厳しいマーガレット(シガニー・ウィーバー=敵役で好演)
ボスは意外な弱さも見せるがコンピューターに敵意を持ってたり超頑固。
与えられた仕事はニューハンプトンで隠遁生活を送る
J・D・サリンジャーに届くファンレターを読んで、返事を書く仕事。
その文面は「サリンジャーはファンレターを読みません」という
にべも無い(ジョアンナ曰く、ボーシェ・・・クソ詰まらない)文面だが
手紙には必ず目を通すこと。
何故なら後々問題になるマーク・チャプマン(ジョン・レノンを射殺した犯人)
の様な考えの人物が混ざっていないか?
それをチェックする仕事でもあるのだから・・・。
「ライ麦畑でつかまえて」は2度ほど挑戦しています。
村上春樹の新訳本が出たときも読んでいるのですが、
純文学は苦手です。
頭になかなか入りません。(ミステリーの翻訳本の方が好き)
でもサリンジャーと聞くと血が騒ぐんですね。
多くの青少年が通過儀礼の様に
「ライ麦畑でつかまえて」
になぜ心を掴まれるのか?
その理由は、未だに謎です。
ライ麦を【親殺しの本】と喩えてある記事を読んだり、
ジョン・レノン射殺犯のマーク・チャプマンが
「ライ麦畑でつかまえて」の愛読者であった点。
しかし今一度「ライ麦畑で・・・」のあらすじ概要を読むと、
《社会の欺瞞に怒り純粋な生き方を試行するホールデン》
主人公のホールデンに好感と親近感を感じるし、《理解できる》のです。
うーん、そんな気がするんです。
ジョアンナが出版エージェントに勤務した1995年の1年間。
サリンジャー宛に来た手紙にある日、ジョアンナは返事を書いてしまう。
「教師からサリンジャーに手紙を書いて返事が来たら、国語にAが貰えて
・・落第から免れる」と書く女子高生に
ジョアンナの名義で返事を書いてしまう。
必死で書くファンレターにジョアンナは、いつしか生き甲斐を感じるのです。
その必死で書くなラブレター(?)には引き込まれる魅力があった。
「そんな誤った行動を戒める返事」
に激怒した女子高生は会社に乗り込んでくる。
「あんたのせいで、夏休みが課外授業に出るハメになったよ」
女子高生とジョアンナの身長差にビックリ。
シガニー・ウィバーと同じくらいあります。
以前に同様に返事を書いたアシスタント社員をマーガレットはクビにしている。
が、ジョアンナはクビにならずに、キャリアアップして、
出版をする案件になっている持ち込み原稿の担当になる。
出版可と判断された原稿の《出版元》を探す仕事を任されることになる。
マーガレットは、この原稿はどの方面の出版社が向いているかを考えて
決める仕事がジョアンナに任されたのだ。
つまりこの原稿は旅行記とか児童書とかエッセイとか古典文学のカテゴリーとか
判別してその方面の出版社と交渉するから【出版エージェント】なのらしい。
この辺りで、やっと出版社と出版エージェントの違いが分かりました。
女友だちと暮らしたアパートメントを出されてジョアンナは男友達と折半で
新しい部屋に暮らすことになる。
彼の即決した部屋は洗い場がない。
お風呂で皿洗いをする2人。
(暖房も流し台も無いような欠陥アパートが許可されるんだなぁ)
女友だちの部屋は洗面所に蓋のない便器が扉もない状態で剥き出しになっている。
(欧米人の感覚には到底付いていけないのである)
この映画の原題は「マイ・サリンジャー・デイ」
サリンジャーさんが30年近くも隠遁していると言うのも、
それほど厳格なものではなくて、古い本を自分の気に入った出版社から出す手伝いを
ジョアンナがしたり、
サリンジャーさんからは頻繁に電話が掛かってくる。
出版の打ち合わせにワシントンに平気で来たりもする。
サリンジャーさんは、作家志望のジョアンナに、
「詩は生命の糧・・・だから毎朝15分でも良いから書きなさい」と、
アドバイスをくれる。
意外と気の良い70代の男性である。
確実に成長して自分を知る目を養うジョアンナ。
マーガレットの下で働いた一年は人生のターニングポイントに
なったのでした。
ジョアンナ役のマーガレット・クアリーはかなりののっぽさんですが、
美しくて真面目で誠実なキャラクターがとても好感が持てました。
うーん、それでもやっぱりサリンジャーの書く文章が、それほど、これほど、
人の心を動かす魔力の一端は理解できたかなぁ?
ミステリーでないから、
「犯人はサリンジャーさんではないし、心を動かす謎は?謎のまま」
☆☆☆
原作は実在(1975年生まれ)の詩人で批評家で小説家でフリージャーナリストの
ジョアンナ・ラコフ。
「サリンジャーと過ごした日々」をサリンジャーの死後の2010年を待って
それから出版されている。