劇場公開日 2022年12月16日

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「まるで映画検定の論文課題」ケイコ 目を澄ませて KeithKHさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5まるで映画検定の論文課題

2023年7月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

難しい

この作品を観て、主人公・小河ケイコの揺れ動く心情とブレない底流にある信念について論ぜよ。
という試験問題が課されたような、それほど内容は濃密で、何より99分の上映時間中、無駄なカットが殆どない高い完成度の力作です。批評家が総じて高評価なのも宜なるかなと思わせます。

実在する聴覚障害の女子プロボクサーの自伝を元に映画化された本作は、ドラマストーリーはあるものの、ほぼドキュメンタリータッチでケイコの日常を淡々と描きます。終始ニュースカメラ目線で映像を捉えていき、ある出来事による多少の波紋はあるものの、劇的な事件やラブロマンスは皆無で、ケイコの約半年間の日常を忠実に映していきます。
周りの音声が聞こえないし話せないために、内向的で人付き合いを好まない、寡黙で無器用な主人公の心の中の起伏は、中々見え辛いのですが、2試合をこなしたこの期間を経て、間違いなく彼女は一皮剥けたようです。一歩階段を昇り成長したのでしょう。日本映画では珍しい“通過儀礼”をテーマにしたようにも受け取れます。

ボクシングを描いた物語にも関わらず、手持ちカメラは使わず、寧ろカメラはほぼ固定され、極端な人の寄せアップも殆どなく、長回しカットが多く使われ、観客は常に落ち着いて、いわば客観的視線でスクリーンを観ていられたと思います。
ただ決して寛いで観られたのではなく、主人公の心情が不透明なまま彷徨いますので、危うい存在であるがゆえに、ずっと息詰まるような緊張感を強いられます。
室内、又は夜のシーンが多いために開放感も得られず、多分、主人公が置かれた閉塞感覚を疑似体験させられたのだと思います。
非常に綿密に計算されたシナリオであり、カット構成であり、演出です。

ただ観終えた後、少しも楽しくはありません。愉快な気分、爽快感、満足感が全く湧いてきません。
私は、上映中、映画鑑賞力を試されているような感覚に晒され、一瞬たりとも気が抜けずにスクリーンを注視していました。エンドロールのクレジットが始まった時には心の底から安堵したしだいです。

KeithKH