「生まれついて全聾のケイコ(岸井ゆきの)。 耳が聞こえないハンディキ...」ケイコ 目を澄ませて りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
生まれついて全聾のケイコ(岸井ゆきの)。 耳が聞こえないハンディキ...
生まれついて全聾のケイコ(岸井ゆきの)。
耳が聞こえないハンディキャップはありながら、プロボクサーとしてデビュー戦を勝利で飾った。
彼女にとってボクシングは、自分の居場所を与えてくれるところ。
そんなケイコの日常は、東京東部の川沿いの小さなマンションで健聴の弟と二人暮らし、住居費を含めて生活費は折半、ケイコはホテルのルームメイキングの仕事をしながら、毎日のジム通い。
それだけだ。
次の試合は近づくが、ケイコの心からボグシングについて少し距離置きたい気持ちが強くなっている矢先、ケイコが通う古いジムの会長(三浦友和)は、ジムを閉鎖することを決意する。
しかし、ケイコはそのことを知らない・・・
といった物語で、最近の映画には珍しく、大きな物語がない。
が、ケイコにとっては、先に書いたあらすじでも日々の大きな物語だろう。
ただただ生きる、日々生きるだけでも大きな物語であることを、映画を観ている方は忘れているのかもしれません。
そんな淡々とした、けれどもヒリヒリするような日々を映画は16mmカメラを通して切り取っていきます。
この生々しさ。
久しぶりに観たな。
80年代ぐらいまでは、この手の映画もあったけれど、もうほとんど見なくなった。
生々しさの源は、岸井ゆきのの肉体と眼力だろう。
彼女から、生きることのヒリヒリ感が漂ってきます。
ジム会長役の三浦友和も、いつも同様、癖のない素直な演技で好感が持てます。
で、手放しで褒めてもいいのだけれど、会長が病気で倒れるのは、ちょっととってつけた感じでいただけません。
ジム閉鎖の最後の試合がケイコの試合ということだけでよかったのではないかなぁ。
その試合で戦った相手と川原で出逢うシーン、相手は工事服姿で、これはよかった。
そう、どちらもヒリヒリした日常を生きている。
リングの上だけが非日常。
束の間の非日常のためにヒリヒリした日常を生き、それが生きることの居場所になる。
傑作といっていいかもしれませんね。