「音と世界」ケイコ 目を澄ませて しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
音と世界
通常スクリーンで鑑賞。
第36回高崎映画祭最優秀作品賞受賞作。
第77回毎日映画コンクール日本映画大賞受賞作。
第92回キネマ旬報ベスト・テン第1位。
原案(負けないで!)は未読。
感応性難聴のプロボクサーと云う難役を体当たりで演じた岸井ゆきの氏の演技が素晴らしかった。役づくりなど、演じるにあたっての相当な覚悟を端々から感じ取ることが出来た。
セリフがほぼ無いにも関わらず、手話で話す際の仕草や表情の細かい変化、ちょっとした目線の運び方などでその時々の感情を繊細に表現していて、すごい俳優さんだな、と…
ボクシングの所作なども相当練習を積んだと見え、つくり上げられた肉体と軽やかな体の動きに惚れ惚れさせられた。是非とも、今年の各演技賞を総ナメにして欲しいと思う。
音の表現に圧倒された。世間に溢れる音を、敢えてありのままに流すことで、音の無い世界への想像を掻き立てられるつくりになっている。これがケイコには聴こえていないのだ。
音の有る無しが世界を隔てている。ケイコに職務質問した警官や肩がぶつかってブチギレたおじさんみたいに、ケイコの生きる世界を完全に理解するのは無理なのかもしれない。
難しい問題だと思う。分かろうとするのももはやエゴかもしれないとさえ思える。でも、全員とは言わないが、多少なりとも生き辛いなと感じる瞬間ってあるのではないだろうか。もし感じたことがあるなら、誰かの悩みや苦しみに寄り添うくらいのことなら出来るかもしれない。ふと、そんな風に思った。
ケイコがいつもの河原で対戦相手に声を掛けられるラスト・シーンに、何故なのかは上手く説明出来ないけれど、否応無しに感動した。ケイコは土手を駆け上がり再び走り出す。彼女の新たな始まりを表現していて良い。その後の、生活音をバックに流れるエンドロールが最高の余韻を齎してくれた。
ケイコと友人たちの女子会のシーンで、手話に一度も字幕をつけなかったところに感じた三宅唱監督の作品への本気度も含め、新年早々素晴らしい作品に出会えた喜びに浸った。
~2023年、映画館初め~
[追記(2023/01/24)]
岸井ゆきの氏が高崎映画祭に引き続き、毎日映画コンクールで女優主演賞を獲得したことが本当に嬉しい。日本アカデミー賞でも優秀主演女優賞を受賞され、あとは最優秀主演女優賞を獲得するだけだ。本作での素晴らしい演技は評価されて当たり前だと思うし、受賞のニュースをきっかけに本作が多くの人に知られ、感動が広がっていくことを願って止まない。
[追記(2023/02/06)]
キネマ旬報ベスト・テン第1位、とても嬉しい。岸井ゆきの氏の主演女優賞獲得も納得だ。日本アカデミー賞の優秀作品賞にノミネートされていないのが甚だ疑問であるが、兎にも角にも、目指せ、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞!
[追記(2023/03/10)]
岸井ゆきの氏、日本アカデミー最優秀主演女優賞受賞!
おめでとうございます。やったー!!!
[以降の鑑賞記録]
2024/08/11:Amazon Prime Video
※修正(2024/08/11)