「言葉なくても豊かな感情は伝わってくる」ケイコ 目を澄ませて ユウコさんの映画レビュー(感想・評価)
言葉なくても豊かな感情は伝わってくる
ギャーギャー怒鳴りあう邦画が多いなか、静謐といっていい映画。暗くてざらざらしてどこか懐かしい、昭和の映画のリバイバルか?と思うような画面(16mmフイルムでわざわざ撮ってるのですね。実在の人物と物語を分けるためにも、これは有効な方法だと思う)
生まれつき耳が聴こえないし、家族は健聴者となると、他人とのコミュニケーションをとるのはただ事ではない苦労があるだろうし人格形成にも大きな影響があるだろう、ということは理屈では判るけどやっぱり判らない。そこを不機嫌そうでぶっきらぼうな振る舞いの岸井ゆきのが見るがわに説得力をもって伝えてくれる。
いびつな感情や性格か?と見えるが、周囲の人とのやりとりや、交わす表情、信頼されてる様子などで、話さなくても彼女の中身がだんだん判ってくる。
気が強くてしっかりもので努力家なだけでなく、痛みに弱くて母の心配をダイレクトに受け迷ったり、という、普通の女の子の部分大きいのだと。
同じく聴覚障がいの友達との食事シーンでは、手相で結婚運を占ってる様子でキャッキャしてるのは微笑ましいしほっとする。字幕はないので推測でしかないけど(これは聴こえない側の日常見てる風景の裏返しですね)
ジムの閉鎖が決まり、会長が見つけてきてくれたのが、ピカピカの設備のよい理解ある女性オーナーという、この上ない条件なのに断るケイコ。
その理由が直後の会長と並んでのシャドー練習で、なにも言わないのに伝わってくる。
最初は逃げ帰ってた弟の彼女も手話を覚え話しかけてきて仲良くなり、その後職場の後輩にも踏み込んで仕事を教えるようになるケイコ。人との距離が縮まり世界が広がる。耳のせいでどうにもならなかったもどかしさも会長を介して人を信頼することで少しずつ変化していく様子、前を向いていく様子が、見てる側に希望を与えてくれる。
泣かせにかかってないけど笑い泣きする映画でした